第8話

注文した新作マロンパフェが私の前に置かれた。


一番上には焦げ茶色の栗の渋皮煮が乗っていて、その下には黄金色のモンブランクリーム。クリームの中には生クリームとチョコアイスとスポンジが隠れているらしい。


はう! モンブランクリームが滑らかで美味しい! それにほろ苦さがあるチョコアイスと一緒に食べると甘さが丁度いい。


何これ。超、美味しいんですけど!


「佐々木は幸せそうな顔で食べるんだな」


目の前の新作マロンパフェに夢中になっていると、向かいの席の秋川に笑われた。


「だって幸せなんだもの。秋川先生だって、幸せそうな顔でマロンパフェ食べているくせに」


新作マロンパフェがテーブルに運ばれて来てから、秋川の表情は予備校にいる時よりもかなり緩んでいる。


秋川が甘い物が好きなのはちょっと意外。


「俺、パティシエになりたかったんだよ」

「嘘だ」

「うん。嘘」


あっさりと嘘を認めた秋川が可笑しい。

こうして秋川とパフェを食べている事が楽しくて、胸がうずうずする。


どうしちゃったんだろう。


「佐々木、ついでにコーヒー取って来ようか?」


秋川が空になった私のグラスに視線を向ける。

秋川が親切で、またびっくり。


「えーと、はい」

「ブレンドでいいか?」


頷くと秋川はドリンクバーコーナーに行った。


なんか秋川優しい。

もしかして私が余命半年だって言ったから? 秋川、気遣ってくれているの?


チクリと胸が痛くなる。


これから私がしようとしている事は実はかなり酷い事のような気がして来た。嘘をついたのは私も同じ。秋川のお説教がうざかったから、話を早く切り上げたくて余命半年なんて言ってしまった……。


秋川を懲らしめるとかって、私、何様なの? そんな権限私にないよね。


「それで、佐々木の話って?」


私の前にコーヒーを置いた秋川がじっとこっちを見る。


どうしよう……。


「佐々木?」


黙っていると秋川が心配そうな顔をする。

なんか秋川の表情がいつもより優しい気がして、心臓がぎゅって掴まれる。


「あの、私の彼氏になって下さい!」


焦って用意して来た言葉がそのまま出た。

時間が止まったようにしーんと静かになる。


こっちを見る秋川の切れ長の目が大きく見開かれて、戸惑いが伝わってくる。

秋川、思いっきり引いている。なかった事にしなきゃ。


「いや、今のは冗談で」

「半年……」


秋川が私の言葉に被せるように言った。

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