第17Q 開戦!関東大会地区予選
「見るのも勉強とか言われたのかよ」
「は?」
「
「あ?」
聞こえた言葉に、思わずムッとする。
「僕は、大人しく試合見れるほど、大人じゃねぇし」
そう言いながら観客席に腰を深くまで座り、寄りかかっている朝比奈の踵は少し浮いている。足元をよく見てみれば、少し痙攣かと思うほど、細かい振動を起こしていた。
――こいつ、バレない程度に貧乏揺すりしてやがる。
「試合を見るのも勉強も確かだけど、僕だったらこう動くとかさ」
まあもっともなご意見である。
「だから、最短で次の関東大会県予選に出してもらうには。あの監督とコーチ共から悔しいけど練習で結果を出して認めてもらうしかないんだよ」
「それはそうだけど……」
「――バスケやってて試合に出たくない奴なんて、いないでしょ」
その言葉にハッとした。確かにそうだと思った。だが、続けて言われた言葉に驚愕するのは仕方がないだろう。
「だから僕はスタメン奪うつもりでいるつもりだけど?」
「は!?」
「もちろん、
朝比奈の目線を追うと、コートに足を踏み入れようとしている内山さんの姿が見えた。
目線を戻せばじっとこちらを見る朝比奈の瞳は、まるで「お前は違うのか」と言っているようだった。少し時間が経っただろうか、朝比奈は腕を高く上げながら「ま、別にいいけど。
「ったく、何が独りよがりだ。
――どうせ誰も着いてこれない癖に」
ボソッと朝比奈がそう呟いた。聴こえた俺は、ふっと顔を朝比奈の方へ向けると何事もなかったかのように、こちらを見向きもせず眉間に皺を寄せて言ってくる。
「視線がうるさいんだけど、何?」
「……別になんでもねぇよ」
「あっそ」
興味が失せたのか、確実にここ最近の経験上二度と視線は交わることはない。
――気の所為だったのか?
ビィーーーーッ。
ノイズに似た機械音が鳴る。瞬時に、意識が1つ下のフロアに移る。
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
笛がピッと吹かれると同時に、軽くお辞儀をしながら互いに挨拶が行われる。今から始まるのは。
ジャンプボール。
センターサークル内にチーム内で長身の選手が1人ずつ足を踏み入れる。うちの場合は路川さんだ。193㎝もある長身は、地区予選を参加するチームでも高い部類に入る。現に、相手チームの
そのセンターサークルの周りには屈伸であったり、肩幅まで足を広げて左右に動かして軽い股関節のストレッチをしたり、何度かその場でジャンプをするなど様々な選手がいる。ルーティンワークとしてやっている者も多い。この時間は、緊張感が走るからだ。
マッチアップの選手の横にいる者、自陣側の方へ少し離れた場所にいる者など選手が位置に着き始める。少しの駆け引きが行われ、その間にも戦略は見え隠れしている。ただ共通しているのは。
――どちらが先に主導権を握るか。
コートから少し離れている2階にあるプラスチック製で出来ている少し冷たい一番前の観客席に固まって座る俺たち1年。とはいえ、前岡と高橋の2人は目の前にある手すりに両腕をかけ、体育館内のあちらこちらに指を指しながら目を輝かせている。だが傍から見れば、あの2人の身長差が凄い。それに加えて、前岡の一風変わった容姿もあり観客の注目が集まる。まあ高校バスケとはいえ、体育の授業とは違う雰囲気を楽しみながら体感しているようで良かったのかな。いつもの練習と、大会の
「ねえ、あの立ってる男子かっこよくない!?」
「やばっ! めっちゃイケメンじゃん」
「だよねだよね! どんなプレーするんだろうね!」
「今やってる試合のチームと同じジャージ着てるし、今日出ないのか」
「えーっ残念……。次のインハイ地区予選なら見れるかな?」
「かもね」
キャー! と黄色い声援に似た声が所々からあがる。その声援の1つでもある、俺たちの後ろの席に座る他校女子の声も昂るような少し大きめな声だ。それを聞いて、近くにいる男子は羨望の視線が前岡に向けられる。それに気づかない前岡と、前岡の本性を知っているからかその会話を聞くたびに肩が震えており、明らかに気づいている高橋。そんな様子がおかしい高橋に気づいた前岡は、キョトンとしたような顔を高橋に向ける。
「えっなんだよ」
「なんでもねェよ、それより試合まだかね」
高橋は腕に重心をかけ、左の前腕をクッションのように自身の顎を置く。そんな中、前岡は前髪を掻き上げながら言う。
「ふっ、そろそろ始まるんじゃないか……」
「でた、かっこつけ男」
『職業:モデル』という肩書が付いているような風貌な前岡に対して、げんなりとした顔で呆れたような声が高橋の口から零れる。そんななか。
「なぁなぁ、今回どこが勝つと思う?」
「突然なんだよ」
聞き覚えのない2つの声。そりゃそうだ、知らない人たちだから。だが、ジャージ(の後ろには高校名が書かれているの)を着ているのを見ると他校の男子バスケ部と推測することはできる。
『勝てば官軍負ければ賊軍』や『勝ったチームが強い』と言ってしまえばお終いだが、スポーツあるある、どこが勝つかの論争はどこでも出てくる。この場所でも同じようで、他校の男子たちや親世代など様々な年代の人たちによる会話は度々耳に入っていた。この観客席でも近くにいる男子高校生2人の会話が、強制的に耳へ入ることになる。
「水咲じゃね? 去年の新人戦地区1位で県大会行ってるし」
「まじか、俺は梅が枝」
「梅が枝なー、あの5番いるじゃん」
「あーいるいる。2mでしょ確か」
「あれ、中々止められないだろ」
「そりゃそうだ。けど、水咲も結構いい線いくだろ」
「まあな、俺新人戦見たときビビったね。4番よりぶっちゃけ7番のやつのプレーが」
「分かるわー、あんなん勝てねえって。今日いなさそうだけどな」
ハハハと互いに笑いながら、そんな会話をしている他校のジャージを羽織る男子たちに視線がいく。ふと思う。結局うちの地区って戦力図どうなってるんだろうな。
「――水戸A地区は、数年前までは梅が枝一強。それより下の順位は結構コロコロ変わってたらしいぞ」
「俺の心を読んだみたいに会話すんな、石橋」
「違ったか? 需要と供給を飲んだはずなんだがな」
足を組み、自身の太ももを肘置きにして顎に手をやりながら目を石橋に向ける。腕を組みながら視線は下のコートから動かさずに口を動かす石橋に対して俺が向ける目は睨むに近いが、石橋はどこを吹く風かのように話を続ける。
「ちなみに、水咲は3位以内には入ったことがなかったらしい」
「へえ」
「そして僕の眼鏡は珍しく普通の眼鏡だ」
「その情報はいらんな?? なぜ入れた?? というかお前の眼鏡が違うとかクッソどうでもいいわ」
「夜野ちゃん僕に対して雑でイイネッ」
「めんどくせぇ」
あとお前その情報どこから仕入れるん? と聞くとアニメとかでよく見るメガネキャラがやる『メガネクイッ』とやりながら石橋は口を開くと「企業秘密だ」とドヤ顔で返され、これ以上話を深堀すると面倒くさいのは見えているため俺は石橋にジトリと目を向けるも会話を続ける。
「これ勝つと思うか?」
「それは
「そう」
質問を質問で返されるが、
「まあ、勝つだろうよ。なにせ湊台にとって
「ふーん」
素っ気ない返事をする。本当は試合に出たい。だけど、この瞬間を見る度に背中がゾクリと震えるような感覚。片手で口元を抑え、己の瞳はコートから動くことなく留まっている。
隣では他の高校の試合がほぼ同じ時刻に始まるのかアップが丁度終わり、バスケットコートが2面ある体育館内は静寂に包まれる。
審判がドリブルを両手で2度突き、一度止まる。ジャンパーの2人が動かないこと、他8人がセンターサークルのラインを越えたり踏んだりしていないことを確認したのちに。高くボールを投げた。
ジャンパー同士の対決。バチン、と互いの指先がボールに当たり弾かれる。
『
――ボールが手に納まった先は。
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水咲高校 スターティングファイブ
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湊台高校 スターティングファイブ
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