☆第18話 vs 湊台高校
ボールの所持したのは、水咲のスタメンの1人。
「よし、1本しっかりいこう」
普段のうざったらしい長めの前髪は紐のヘアバンドで抑えられているため、本人にとっては普段より見やすいのではないかという印象を受ける。そんな内山は左手の人差し指を立て、ゆっくりとハーフラインを跨ぐ。
――とはいかず、手元にあるボールの所持者はとある男に移る。
「まじかい、すぐ俺かい」
須田だ。そんな言葉を口にするも、表情は焦り1つ見えない。腰の横辺りで、前傾姿勢でボールを保持する。前にスペースがあり、一度右にフェイクを入れ、左からドリブルをしようとする。しかし、とある場所をチラッと見ると内山からのパスの意図を汲み取ったのか、須田はとある場所に左側からバウンドパスを通す。
パスの先は、ポストプレーと呼ばれるディフェンスを背に、フリースローラインから少し内側に立つのは路川にであった。相手の東道も
路川が背中を反り、重心を後ろへ向ける。それに負けじと東堂がゴール下に押し込まれないように押し相撲のように腰を低くし、ファールにならない程度に両手を挙げながらペイントエリアの外へ押し出そうとする。
「ゴール下やらせんな!」
湊台の誰かの選手がそう言うとすぐにディフェンス2人が路川の近くに寄る。だが、路川はそうなることを想像していたのか、すぐにパスを右側のコートへ出す。
「待ってましたよ」
ニヤリと笑いながらパスを受け取るのは、サラリとコート上では見た目が異質の存在な金髪を持つ安藤であった。安藤に付いていたディフェンスは路川に寄ってしまっている。つまり誰もディフェンスがいない。現状、フリーだ。
シュートは水物といわれるとはいえ、フリーで打つシュートは試合時のディフェンスがいる状態で打つシュートに比べて当たり前だが明らかに確率は上がる。
安藤は膝を曲げ、上へ跳ぶと同時にふわりと前髪があがる。ボールは手から離れ、シュパッと綺麗にネットを潜った。
ゲームクロックはデジタル数字で赤く『9:52』と表記されている。つまりその数字は、8秒で水咲の
「ヤバいあの7番がいないんだ、大丈夫だ。うちが勝つぞ!」
何度も手を叩き、そう言いながら味方を鼓舞する湊台の4番である中村。
しかしそれを聞いていた内山。漫画であったら、明らかにこめかみには怒りのマークが浮き上がっていただろう。近くに来た須田は内山の肩を軽く「ドンマイドンマイ」と言いながら叩いたが、お気に召さなかったのか矛先が須田へ向く。
「あんな奴いなくても、うちは強いと証明してやるよ。あと須田ぶっ潰す」
「いや俺関係なくね??」
「一瞬プレー迷っただろお前」
「なーんでわかんの?」
そう言いながらディフェンスに戻る内山の眉間には、皺が深く刻まれていた。「ええー」と困惑気味に内山の後ろ姿を見る須田。「おーい、返事ないのキャプテン悲しいよー」と続いて言うなかで路川が少し笑いながらディフェンスに戻り、白橋は我関せずと相手側のコートに戻って自分のマークマンにピタリと付いていた。そんな様子を気にかけてか、「なにやってんすか」と声をかけるのは安藤だ。
「悲しんでる」
「見たら分かるわそんなもん、ほら早くディフェンス戻りますよ」
「はーい」
明らかに会話を聞いていると、年齢が逆なのではないかと思わされる。そんななか、のほほーんと試合中とは思えない雰囲気で須田がいるので安藤が背中をぐいぐいと押しながら戻るように促す。すると須田が口を開く。
「いや、地雷踏んだなあいつらって思って」
「いやなに他人事のように言ってんですかアンタ、仮にもキャプテンでしょ?? 副キャプテンの手綱ぐらい握りなさいよ」
「いや別に大丈夫でしょ。プレーに支障が出るぐらいヤバそうなら止めるけど、うちの内山君は基本的に冷静です。大丈夫、俺より頼れる人間だから……ね!」
「おいおい」
親指を立て、いわゆるサムズアップをしながら言い切るキャプテンである須田に対し、結構な呆れ顔を披露する安藤だった。
気が付けば、4
「おいおい、マジかよ」
「いやー、
「凄いってものじゃないだろ……」
観客の1人が、冷や汗が額の縁を伝う。それは、会場にいるほとんどの人間の視線の先。そこには、2つのデジタルのスコアボードに表示されている点数。
水咲 湊台
105 52
梅が枝 東藤
105 30
丁度、同じタイミングで始まった2つの対戦カード。会場にいるほとんどの人が、その結果に息を吞み、驚愕したのだった。
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