砂糖

@My_Life_Of_Music

砂糖

 警鐘の音色が私の耳を叩く。私は果実をかじる。果実の咀嚼音が上顎を微かに震わせて、私の鼓膜を背後からくすぐる。昨日は柿の実を食べた。私の好みは硬くて甘味の薄いヤツだが、昨日のは柔らかくて毒々しいまでに甘かった。私にとって砂糖は毒だ。静脈注射をしないだけ覚醒剤よりはマシだとも書き足しておこう。全く甘すぎた。私の友人は甘い物なら何でも旨いと言う。奴ならそのうち塩とスパイスの効いたフライドチキンにすら砂糖を振りかけるだろう。全く私の周りには甘い奴らが多すぎる。私はまるで湯せんで溶かしたチョコレートの中に浮くアーモンドのようだ。うま味の薄い奴ほど見かけは甘ったるく、それでいて口に放り込めばすぐに溶けてしまう。私の口の中には下品でいやらしい甘さだけがネットリと残る。砂糖は毒だ。覚醒剤には禁断症状がある。禁断症状の無い物は少ないから、私は禁断症状を嫌っている訳ではないのだろう。ただ、何かに依存する自分は許せても、私を依存させているものには恨みが募る。私は服に依存している。人前に立つ時に、服を着ずにはいられない。全く依存している。依存症は直さなければならない。しかし、私は直さなかったし直していない。依存は直す必要はあっても、直さなければ直らないのだから。これは矛盾ではない。違反と放置はそもそもの自然法則であった。ライオンに食べられてはいけない鹿と鹿がライオンに食べられなければいけない生態系のルールは共生の道を選んだ。私の身体は違反と放置という砂粒の山積によって生み出された砂漠の砂山に他ならない。子供の頃に見た砂漠の砂丘に、得も知れぬ感情を抱いたあの頃の私へ。君は正しかった。私はそうして友人を発見したのだ。彼は私によく、君と僕は似ていると言う。私はいつもそれを拒むが、私の耳はその拒絶の言葉を最も好んだ。私は拒絶を嫌っている訳ではないのだろう。ただ、私に似ている彼には恨みが募り、それを拒絶する自分を許しているのだ。

 リンゴをかじった。蜜の少ない、硬いリンゴだった。

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