第5話
翌日の午前中に工房に到着すると、先に叔父が中で本焼きした陶器の仕上げを行っていた。
「お前、体調はどうなんだ?」
「良くなったよ。ここ、手伝うね」
素焼きした他の陶器に
昼休憩を挟んだ後、持ち場に戻り椅子に腰をかけた途端、眩暈のような感覚が起こった。
「
「薬剤の匂いに反応したのかも。外に行ってくる」
窯の軒下に来て、ひとつ、またひとつとゆっくり深呼吸をした。
息子夫婦らが来ている事もあり、どこかで緊張が張り詰めているのだろう。
いつもより身体の疲れが出ているのかもしれないな。少し時間を置いて再び工房に戻って作業にかかった。
16時。先に自宅へ帰ると、
「おかえりなさい。今日はどうだった?」
「途中で具合が悪くなったけど、何とか耐えれたよ」
「おじさん、どこか悪いの?」
「少しだけ体調を崩すところがあるだけで、あとは大丈夫」
「ねぇ、この本知っている?」
「昨日少しだけ読ませてもらったよ。内容難しいよね。蒼くん好きなの?」
「うん。去年の誕生日に買ってもらったんだ。それからずっと読んでる」
「この子本当にこの本好きでさ、ずっと離さないの。私は絵が不思議であまり見る気になれないな」
「うるうの森って知ってる?」
「いや、初めて聞いた」
「クラスのみんなが話していたんだけど、もしかしたらこの近くにあるんじゃないかって言っているんだ」
「また、言ってる。蒼、みんなから話を聞いて信じているんだよね。あり得ないからさ」
「絶対あるよ。ねぇ、おじさん耳貸して…僕、この森に行きたい。連れて行って」
「どこにあるかも分からないのに?ちょっと、それはな…」
「蒼、その森という所に行ってはいけないよ」
「お婆ちゃん。聞いていたの?」
「あのね、絵本に書いてある事は全部物語のお話だけの世界なの。だから、この里山にあると断定はできないわ」
「うん…」
「もし仮にあったとしても、森の奥深い所にあるから、危険なんだよ。蒼、諦めた方が良いよ」
「それ、もう一度読ませてもらってもいいかな?」
蒼から絵本を手渡して、読んでみた。
たしかにこの里山だと決める事は出来難いことだが、彼が森の存在に信じている理由が分からなくもなかった。
「ヨイチか。この住人が森にいるってことが本当なら、ちょっとは面白いかもな」
「橙一。貴方も信じるの?」
「興味はあるかな」
そう言うと蒼は僕の顔を見つめて目を輝かせていた。子どもが興味を持つのも良い発想力を持てる物語だとは感じ取れた。
息子夫婦が戻ってきた。
「橙一。明日と明後日に親戚の家に立ち寄る。悪いんだから、ここで子ども達を預かって見てもらえないかな?」
「僕は大丈夫。叔母さん、工房は休んでも良いかな?」
「私からお父さんに話しておくわ。」
「分かった。2人とも、よろしくね」
4人がホテルへ帰ると、入れ違いで叔父が帰ってきた。
「仕上げかぁ。納期の事、忘れていた」
「だと思った。だから、明日は工房に来なさい。ご近所さんも呼んだ。皆で一緒に仕上げに入る」
「それじゃあ樹と蒼は私が見ています。橙一はお父さんと一緒に行きなさい」
「分かった」
就寝前。蒼から預かった絵本を読んでいた。
なぜだか分からないが、物語の世界に引き込まれるように夢中になって読破した。
深夜。寝つきが浅く目を覚ました。寝返りを打ち襖の方に身体を向けると、またもやあの鳥の鳴き声がした。
ホロホロホロ…。
すると脳裏にある物が浮かんだ。幾重になる羽根がこちらを威嚇するように広げて、木に留まる脚を勢いよく蹴り、翼を羽ばたかせて夜の山間を低空で飛ぶ姿が勇ましく感じた。
この家の屋根の上だろうか。身を下ろして首を傾げながら見張るように瞳孔を開き、辺りを観察している。
再び飛び立ちどこかへ行ったようだった。
彼は一体何を伝えにきたのだろうか。
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