第3話

1ヶ月後、叔母の息子夫婦が里山にやってきた。


その頃僕は仮眠をしていた時に、玄関先からかん高い声が聞こえてきて、目を覚ました。


重たい身体を起き上がらせて、しばらくぼんやりとしていると、襖の戸を叩く音がしてきたので返事をすると、1人の男児が戸を開けて僕を見つめてきた。


「おじさん、誰?」

「叔母さんの親戚の橙一というよ。蒼くんだよね?」

「何で知っているの?」

「叔母さんから聞いたよ」

「ちょっと。勝手に上がっちゃいけないって…初めてまして。私、娘のいつきと言います。起こしてすみません」

「いや、いいよ。樹ちゃんだね。初めてまして、橙一です。」

「向こうでお父さんが呼んでいるんで、行きます。また後で。…ほら、蒼。行くよ」


蒼は僕の顔を見つめながら樹に腕を引っ張られて、居間へと行った。手で頬を触ると浮腫んでいた。目を擦り、居間へ行くと息子夫婦が叔母と話をしていた。


「橙一、久しぶりだな。子ども達が起こして悪かった。今日は調子はどう?」

「まあまあかな。こっちには自家用車で来たの?」

「ああ。高速道路もそんなに渋滞していなかったから、思ったよりも早く着いた。」

「橙一さん、元気そうで良かった。しばらくあの子達もにてうるさくなるけど、よろしくね」

「はい」

「うちの親父が皆んなにって。台所に里芋持ってきたから食べてよ」

「ありがとう。皆んな元気で嬉しいよ」

「早速なんだけど、明日婆ちゃんの見舞いの後、市内に立ち寄る所があって。樹をここに留守番させても良いかな?」

「樹、橙一と2人になるけど良いか?」

「うん。そんなにかからないんでしょ?それなら大丈夫」


僕が息子夫婦と顔を合わせて話していると、樹の視線が目に入ってきた。目を丸くして彼女に問うような表情をすると、じっと僕の顔を見つめてきた。


「何?」

「橙一さん、髪がボサボサだね」


皆が僕の方を見て笑っていた。僕もつられて半笑いをした。


翌日、市内の中通りにある叔母の母親が入居している施設に皆で訪れた。その後、叔母と息子夫婦と蒼と別れて、先に僕と樹と2人で車で自宅に向かった。


「あのさ、爺ちゃんの工房って今から見に行く事ってできる?」

「家に鍵があるから、それを取りに行ったら行けるよ」


一度自宅に着いて工房の鍵を取りに行き、その後工房へ向かった。


到着してから、中に案内すると、並べられた陶器や工房内の設備機材を見回して、樹は興味深々に僕の話を聞いてくれた。


「ここは控え室。昼休憩とかで使っているんだ」

「思ったよりも狭いけど、なんかこの空間の匂いが好きだな」

「気に入ったとか?」

「来た事ない場所だけど、それなりに良い感じだね」

「外に出てみようか?」


樹を窯に連れて行くと雨が降ってきた。

また予報外れの雨だ。窯の軒下に雨宿りをしていたが、止みそうにもないので、僕は来ていたジャケットを彼女の頭にかけてあげた。


「え、良いの?」

「いいよ。車でまで少し走ろう」


軒下から出ようとした時、樹は僕の腕を掴んできた。


「何?」

「一目惚れってこういう事をいうのかな…」

「一目惚れ?」

「何でもない。行こう」


車に駆け寄って乗り込み、自宅へと向かった。


帰り道、樹が運転する僕に話しかけてきた。


「さっきの事なんだけど、皆んなには黙っていて」

「一目惚れって言った事?」

「うん。昨日初めて会ったばかりなのに、あたし何言っているんだか…」

「僕に限らず、気になる人がいる事は悪いことではないと思うよ」

「そう?」


樹はなんだか嬉しそうにしていた。


自宅に着いてタオルを渡してあげると彼女は優しく微笑んでいた。

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