第2話

18時。少しばかり寝過ぎてしまった。


布団から起き上がり、耳を澄ますと台所からまな板で調子良く食材を切る音が聞こえてきた。油の匂いもする。


「随分眠っていたのね。あらいやだ、寝癖がついているわよ」

「洗面所行ってくる」


洗面所の鏡を見て、右側の前髪が上がっているのを見つけた。水で寝癖を直して再び台所へ行くと、今朝叔父が買ってきてくれた山菜を天ぷらにして揚げていた。


叔父から連絡があり帰りが遅くなるから、先に夕飯を食べるようにと言っていたみたいだ。

テーブルに座って叔母と一緒に夕飯を食べた。


「こごみ、柔らかくて美味しい。」

「かき揚げも作ったから食べてちょうだい」

「あっ、椎茸。」

「味噌汁に入れてみたの。食べれそう?」

「…うん、大丈夫そう」

橙一とういち、そんなに椎茸ダメだったっけ?炊き込みご飯に入っているのは食べれるのにね。」

「香りは好きなんだけど、食感がどうも…。いや、前よりは食べれるようになってきているよ」

「それなら良かった」


この歳になっても好き嫌いがあるのがどうも気に入らない。せっかく料理をしてくれる叔母に気を遣わせて申し訳ない気持ちで、その癖を1日でも早く治したいものだ。


「そうそう。来月から1週間子ども達がこっちに来るって。貴方、初めて会うわよね?」


叔母の息子夫婦が休暇を使って里山に遊びに来るとの事だ。息子には会った事はあるが、その子どもらにはまだ会った事がなかった。

賑やかになりそうだな。


「こっちに来ても何もないよね。市内でホテルにでも泊まるの?」

「そうするみたい。少しばかり騒がしくなるけど、いつも通り過ごしていなさい」

「僕の事は子どもらは知っているの?」

「少しは話しているみたいよ。下の子が5年生だから多少の話し相手にならないといけなくなるけど…良いかしら?」

「少しくらいなら良い」


後片付けが終わると、居間のソファを背もたれ代わりにして畳の上に座り込み、テレビを点けた。民放局を見ていたが、ガヤガヤとする話し声が耳障りになってしまうので違う放送局に変えて海外の街並みを特集している番組を観ていた。


叔父が工房から帰ってきた。叔母が茶碗を添えて叔父に夕飯を出した。


「今日の天気予報は外れたわね。新しく陶器も作ったんでしょう。湿気とか大丈夫かしら?」

「多少はどうにかなる。また明日見に行くから、心配しなくても良い」

「今年は雨が多いね。叔父さん、僕も行こうか?」

「いやいい。お前は家でゆっくりしていなさい」

「橙一、また顔色良くないわね。ソファに横になって良いわよ」

「少しだけ横になるね」


ソファで身体を横向きになりながら、テレビを観ていた。叔父が夕飯を済ませると、浴室の湯船に浸かっていった。僕も入ろうと考えていたが、急な雨のせいか身体がだるくこのまま眠ってしまいたいくらいだった。


食後の処方箋を飲み忘れるところだったので、起き上がり居間から持ってきて台所で飲んだ。


「すっかり忘れてた」

「どうしたの?」

「明日、診察だ」

「もう1ヶ月経ったのね。1人で行けそう?」

「うん。帰りに図書館にも寄ろうかな」


そういえば貸し出ししていた本を返却しないといけなかった。ついでだから寄っていこう。


22時。自分の居間に入り布団を敷いて横になって眠ろうとしていた頃、雨が上がって虫の鳴き声が聞こえてきた。


良かった。そう考えていると、何かの生き物の鳴き声が聞こえくる。


ホロホロホロ…。

明らかにカラスや鷹やサシバではない。


あれは、フクロウか?

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