第7話 皇太女クロエの苦悩


----一体どういう事なの?


 皇城の紅の間。

 華やかに彩られた迎賓の間には、現在神聖国から婚姻の儀の為に来たレオナルド第二王子以下、神聖国からの従者達が静かに皇帝と相対していた。

 そして、クロエは婚姻の儀の為に神聖国から来たレオナルド第二王子とその仲間たちに目を白黒させていた。

 王太子の護衛騎士だった筈のウィリアム様が来たのも驚きだが、何よりも。


----ありえないわ。何故聖女様が神聖国を出てのこのこと我が国に来ているのよ⁈


 建国以来、聖女が神聖国の外に出た事は一度も無かった筈だ。神聖国の建国の際に、神聖国の初代王が神と契約したと聞いている。


----まさか、本当に、覚醒してないの?


 クロエは、ドラゴンを始祖に持つ帝国の皇女だが、巻き戻りを経験し、今生が二度目だ。

 ドラゴンの血が関係しているのか、皇帝に近い者たちの中にはちらほらとこれが巻き戻りの生であると自覚している者もいる。

 前の生では、今の時より10年前に神聖国に聖女が覚醒し、二代続けての聖女の顕現に戸惑ったが、恐らくは新しい聖女がいわゆる初代の生まれ変わりであろうとの事から、私たちの代では、婚姻の儀は行わない事を決め、次代の聖女にもし子供が出来たなら、その子を帝国に戴く事に決めた。何故いわゆる初代の生まれ変わりと断じたかというと、その根拠は

①新しい聖女様が、男女の双子の片割れだったから。

 建国以来2000年に渡る歴史において、いわゆる初代聖女様の魂を持つ生まれ変わりは、それまで既に3回顕現されている。その3回とも、男女の双子の片割れとして生まれてきていたからだ。何故そのように生まれるかというと、

②かつて共に魔物の討伐の為に共闘した竜(ドラゴン)の魂の一部を双子の兄として、共に生まれ変わるから。

 これは、始祖竜様から直接聞いたのだから、確かな情報だ。何故なら……。


----後で始祖竜様にお聞きしなくては。


 クロエは後程、皇城の最奥にある後宮の、更に奥にある離宮の最上階の部屋を訪れる算段をつけていた。きりりと、唇を噛み締めると、横に立つ兄皇子からつんつんと密かに腕を突かれて嗜められる。


 始祖竜様は今現在もご存命で、この皇城にいらっしゃるからだ。


「気持ちはわかるが、唇を噛むのはやめなさい」

 クロエにだけ聞こえるように囁かれて、クロエは唇を噛むのをやめた。

「お兄様。これは大丈夫ですの? 神から帝国に怒りを向けられる事は無いのかしら?」

 妹の不安に、兄は小さく溜息を吐く。

「ウィリアム殿が来られている事から推察するに、神聖国で何かあったのだろう。聖女様も、覚醒されていないから問題無く国から出られたのだろうし、リュカ殿の名で来られた事と、既に始祖竜様が目覚められた事からも、前回とは流れが違いすぎる。……色々と確認が必要だね」

 皇帝から皇太女、兄皇子の紹介をされ、二人は無難に微笑んで挨拶をした。

 それぞれの部屋へと口頭で案内をした後で、クロエはこの後リュカと名乗ったフィオナか第二王子であるレオナルドを自室へと連れて来る事は可能だろうかと考えた。


 どちらとなら、答え合わせができるだろうか?

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