第15話

 レイドの気配けはいがして飛燕ひえん達が家を出る。するとほぼ同時に、バキッ!っと大きな音と共に街の近くにに雷が落ちた。


「ーー……ちっ。早いな」


 飛燕が眉を寄せる。すでにレイドの能力が発動している。急がなければ、雷で森が焼けげる。


「走れるか?紫苑しおん

「うん。大丈夫」


 住民の避難はフリージアに任せてあるので、飛燕達は迷わず城に向けて走り出した。バキッバキッ!と、雷が立て続けに森に落ちる。

 紫苑は飛燕の体も心配なのだが、事態が事態ゆえに、それを言っている場合ではなくなってしまっている。

 ……それに。

 飛燕は紫苑と一緒にいると、必ず彼女を護ろうとしてしまう。自分が足手まといなのは分かっているので、飛燕に何かを言う資格は紫苑にはない。

 せめて、少しでも彼の力になりたいけれど、まだ自分の能力すらまともに扱えないのに、どうすれば彼の負担を減らせるのか皆目かいもく見当もつかない。


「……ーーーー」

『姫っ!!』


 声が。聞こえた、と同時に、紫苑の思考が一気に現実に引き戻される。走りながら考え事をしていた彼女は、雷が自分に向かって落ちてくる事に全く気付いていなかった。彼女を光が包み込むのと、飛燕が彼女に手を伸ばすのは、ほぼ同時ーーーー。

 あまりの光の強さに、さすがの飛燕も目を細める。


「ーーーー紫苑っ!!」


 コゴォッ!バキッバキッ!!

 すさまじい雷鳴らいめいが鳴り響き、地響きがとどろく。直撃していれば、人間の紫苑はひと溜まりもない。飛燕は紫苑におおかぶさる状態で地面に伏せていたが、素早く体を起こして辺りを見渡す。紫苑が飛燕の腕の中で身動ぎした。


「紫苑……」


 飛燕はホッと息を吐く。紫苑は落雷の衝撃で暫く放心状態だったが、暖かな風を感じて視線をそちらに向けた。

 ……雷が落ちる寸前に聴こえた声。それと、同じ気配がしたのだ。落雷地点にいたはずの紫苑達の周りを、炎の壁が優しく包み込んでいる。火は決して熱くなく、中にいる彼女達を護ってくれていた。


「ヤイト……?」


 紫苑が名を呼ぶ。その名前は飛燕も聞き覚えがあった。紫苑がハロゲンワークスの皆に龍を見せた時に、そう呼んでいたから。

 そうーーーーそこにいたのは、紫苑と共にこの森に来た、龍だった。……姿が違うが、まさしくそれは彼だった。


「…………お前……」


 飛燕がヤイトと呼ばれた者を見つめる。見た目は人間だが、気配が自分と同類のものだ。

 ……この龍……。

 ヤイトはちらっと飛燕に視線をくれたが、すぐさま紫苑の元に駆け寄って膝を曲げた。


「紫苑。怪我ない?」

「えぇ」

「そっか、良かった。紫苑に何かあったら、俺、こいつの森を焼き払ってる所だったよ」

「……おい」


 どすの利いた低い声で飛燕がうなる。

 ヤイトが冷たい視線を飛燕に向けた。


「何だよ?紫苑を護れない守護神なんていらないだろ。当然だよ」

「だからって燃やしたら、レイドとやってること同じだぞお前!紫苑の意志を考えろよ!アホか!!」

「……はぁ?今まで紫苑に寂しい思いさせてた奴に言われたくないんだけど!」


 目の前で繰り広げられる攻防に、紫苑は目をぱちくりさせる。何と言うか、これは……。


「ーーーー…………仲良いね?」

「「それは違う!!」」


 息ぴったりでそう答える二人に、紫苑はクスリと笑う。それを見た二人は、目を見合わせて、気まずそうに目を逸らした。ヤイトは紫苑に向き直る。


「……コホン。……えっと、紫苑はこの姿で会うの初めてだよね?」

「う、うん」

「じゃあ改めて。俺はヤイト。炎をあやつる龍神。神というくくりで考えれば、飛燕の同胞どうほうってことになるかな」


 そう言って彼は、飛燕とはまた違う、暖かな日だまりのような笑みで笑ったーーーー。

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