第10話 第九の攻防

 赤ずきんちゃん宅への近道である林の中を赤ずきんちゃんが薄い水色の下着姿で、素晴らしいストライドを描きながら、全力疾走しています。


 彼女の20mほど離れた後ろには、ポッコリお腹が少し出た狼が、唇から涎をたらしながら、追いかけてきます。


 すんでのところで、赤ずきんちゃんは自分の家に無事到着し、ドアを開けて中に入ります。


 なぜ、このような状況になったのでしょうか?


 20分前、人通りの少ない路地で、路地裏に隠れて、狼が赤ずきんちゃんを待ち伏せしていました。


 赤ずきんちゃん宅に行くには、どうしても、この路地を通らなければなりません。


 赤ずきんちゃんも、以前、狼が隠れていて後ろから抱き着かれそうになったことがあり、気味悪がっていた場所ですが、この路地を通過しないと家につくことができないため、しぶしぶ、歩いていました。


 赤ずきんちゃんが路地に差し掛かったところ、よける間もなく、パッと狼が躍り出てきて、爪で衣類の上から下へと引き裂きました。


 赤ずきんちゃんは声を上げることもできないぐらい驚いたものの、とっさに前を隠して、狼の脛を思い切りけりました。


 一方、狼は「ギャオ‼」と声を上げたものの、狼をかわした赤ずきんちゃんの後ろから衣服をはぎ取ります。


 赤ずきんちゃんは、薄い水色のブラジャーとパンティーだけの姿になってしまいました。


 彼女は、何を思ったのか、後ろを振り向き、狼の股間を蹴り上げます。狼は、声にならない叫びをあげながら、うずくまりました。


 そして、赤ずきんちゃんは、持っていたカバンを投げ捨て、全力疾走で自宅に向けて走り出しました。


 途中、普段なら近道とはいえ、見通しの悪い林を通らず帰宅するところ、今回は一刻も早く自宅につきたい彼女は、自宅への近道である林を通って帰ってきました。


 そして、現在。


 自宅に到着して、ドアを開けて家の中に入った赤ずきんちゃんは、携帯を操作して、2階にあるPCを立ち上げると共に、2階に駆け上がり、何やらPCを操作して、Enterを押しました。


 ここで、ようやく、一旦、へなへなとなる彼女。


 一足遅れて赤ずきんちゃん宅に到着した狼は、目を血走らせながら、ドアのノブに手をかけました。


 ところが、彼は、「ぎゃああああ‼」と悲鳴を上げて、ドアのノブから手を放しました。


 そう、ドアのノブには、電流が流れていたのです。赤ずきんちゃんが帰宅してから、2階へと急いだわけは、ドアのノブに電流を流し、時間稼ぎするためだったのです。


 しばらくして、落ち着きを取り戻す赤ずきんちゃんと左手のしびれが取れてきた狼。


 赤ずきんちゃんの方は、衣服を身に着ける間を惜しんで、PCを何やら操作していました。


 一方、狼は、赤ずきんちゃんの庭に穴を掘り、こっそり隠しておいた袋を取り出して中に入っていた鏡で固めたチョッキやパンツとヘルメットをかぶります。手袋は、ドアを開けて入るまでは、ゴム手袋をはめておくことにして、狼は、ドアを開けて赤ずきんちゃん宅の中に侵入しました。


 そのとき、屋内アナウンスが流れてきました。「お越し下さり、ありがとうございます。小型冷蔵庫に冷たい飲料が冷えていますので、お飲みください。」


 狼は、走ってきて喉が渇いていたので、「ありがたい。」と言って、コップに入った飲料を一気に飲み干しました。


 赤ずきんちゃんの部屋では、彼女が、PCのモニター越しに狼の様子を見ながら、「今度という今度は、赦さないからね。」とつぶやいていました。そして、パソコンを操作して「フォーメーションF起動‼」と言い、Enterを押します。


 またまた、狼の方はというと、「来客の方は、赤外線ゴーグルを装着してください。」と話しかけてくる赤ずきんちゃんの声の屋内アナウンスに応じて、「これまでのことがあるから一応、装着しとこ。レーザーなどこのチョッキやパンツを身に付けていれば、安心‼」と息巻いていました。


 狼のそのような様子をPCのモニター越しに確認しながら、赤ずきんちゃんは、「単純馬鹿は、扱いやすい。こういう行動に出てくると思っていたんだよ、あたしは‼」とせせら笑いながら、パソコンを操作して「フォーメーションA解除。」と言い、Enterを押します。さらに彼女はパソコンを操作し、「フォーメーションA-2起動。」とつぶやいて、Enterを押します。


 狼は赤外線を探しながら歩きますが、赤外線はそんなにありませんでした。彼は余裕だとばかりに大胆に歩いていきましたが、ロープに引っかかりまくったことで1階の床が広範囲に開き、彼は地下室にセッティングされた大きなフライパンの上にドスンと落ちてしまいました。


一方、赤ずきんちゃんの部屋では適温の快適な部屋で、彼女がPCのモニター越しに狼の様子を観察しながら、ルームウェアを着ていました。衣服を身に着け終わった彼女は、またPCに向かって何やら操作した後、「フォーメーションF起動‼」と言いながら、Enterを押します。


 すると、1階の床の下に何やら違う床が出現し、そこから食用油が投入されてきました。やがて、適度に食用油が投入されると、赤ずきんちゃんは、パソコンを操作して、「フォーメーションF解除‼」と言い、Enterを押しました。さらに、彼女はパソコンを操作して「フォーメーションG起動‼」とつぶやいて、Enterを押します。


 今度は、野菜が地下室に向かって降り注ぎ始め、赤ずきんちゃんは、「ネットで調べたら、狼の肉は美味って言うじゃない。グルメ肉だよ、グルメ肉。おいしいグルメ肉で、狼パッツアを作るぞぉ~‼」と意気込みます。


 地下室にいる狼の方はというと、暑くなってきたフライパンから脱出しようとしますが、食用油のため、滑ってうまく歩けません。


 また、降り注ぐ野菜に「痛ぇ~(>_<)‼」と言いながらも、何とか、前に進もうともがきます。


 彼はついに、やけどを負うのを覚悟して、油でぬるぬるになった鏡で固めたチョッキやズボン、靴下を次々と脱いでいきました。「アツ‼アツッ‼」と言い、滑って勢いよくこけます。「イテテテ。(>_<)」と呻き半ば涙目になりながら、フライパンから逃れようとする狼。


 何度となく、こけながら、それでも、狼はフライパンから脱出し、地下室から地上へと続く階段へとたどり着きます。


 狼はやけどの痛み(>_<)で泣きそうになりながら、赤ずきんちゃん宅の玄関に回り、ドアノブを開けて中に入り、「俺は、絶対諦めへんでぇ~。また来るからな。」と捨て台詞をして、スニーカーを履いて帰っていきます。


 一方、PCのモニター越しに狼の様子を見ている赤ずきんちゃんは、「観念して、メインディッシュになったらいいのに。つまんない。」と膨れまていした。

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