第16話 告白

 校舎を出た俺と葵は気まずさから近くのコーヒーショップに入って一度落ち着くことにした。


 椅子に座り、コーヒーを飲み、ケーキを食べてようやく落ち着いた。


「チーズケーキ美味しい!」

「俺のチョコケーキも美味いよ?一口食べる?」

「うん!」

「んじゃ、あ~ん」

「ええ!?」

「あれ?違った!?」

「あ、ううん!違わない!あ~ん!ッッッん!」


 慌ててフォークを引っ込めようとしたが葵がテーブルに乗り出す勢いで顔を近付けてきたからそのままフォークに差したケーキを口に入れてやった。


「お、美味しい……」

「だろ?」

「その……普通にお皿を交換するんだと思ってたから……あ~んとか……」

「お弁当で散々したじゃん」

「外は初めてだもん!」

「いや屋上も外で……は……いや、何でもないっす」


 そんな真っ赤な頬でオパールのような瞳に涙を溜めながら睨まなくても……


「勇斗は何でも急にするんだから!」

「あはは」

「いいんだけど!いいんだけど!」

「なら、もう一回」


 チョコケーキを差して葵の目の前に差し出すと、葵は嬉しそうに目を細め、ぷっくらとした小さな口でケーキを食べた。ちろりと覗いた舌がエロい。


「ん……ありがとう」

「どういたしまして」


 イチャイチャした俺たちはコーヒーショッブを出て人気のない路地から──鏡の世界へと移動した。


「あれ?なんか急に人が居なくなったね?」

「ああ……」

「みんなお夕飯の支度でもしてるのかな?」

「いや、ここは違うんだ」

「………何が?」

「ここは俺たちが暮らす世界と表裏一体の世界。アナザー・ワールド」

「勇斗くん?」

「実はさ……葵が俺と初めて会ったときに話してたアレ」

「二足歩行のゴキブリの話?」

「そう。あれは実は現実に起こっていた話だったんだ」


 息を呑み黙って俺の次の言葉を待つ葵に俺は覚悟を決める。


「ここは君が連れ込まれた異世界で俺たちが戦う世界なんだ」

「戦うって……」

「見ていてくれ……」


【アクティベイト】


【チェンジ・オーガ】


「きゃっ!」


 俺の全身を赤い光が包み込み球体を成す。

 そして………


「かい……ぶつ……」

「驚いた?俺は君を連れ去ろうとした怪物を倒したりするためにこの姿に変身して戦っているんだ」


 おとぎ話の赤鬼と化した俺の姿に葵は一歩後退る。

 その瞳に、オパールのような深い瞳に恐怖の色が見える。足も少し震えているように見える。


「怖かった?ごめんね……」


 失敗した。どう伝えれば良かったのか。

 竜也みたいなスタイリッシュなヒーロータイプの変身なら全然受け止められたんだろうけど……


「そりゃ鬼が出たら怖いよな……」


 悲しくなってきたら涙が出た。

 これは振られるな。鬼じゃな。人じゃないしな。

 目を瞑り、心が悲観色に染まりそうになったその時──


「怖くなんかッ!ないッ!」


 ふわりと首に回された細い腕、ちゅっ……と唇に触れた柔らかな感覚が、一瞬だけど身体に電気が奔った気がした。

 目を開くと葵が背伸びしてなんとか首に手を回しているのが見えた。


「怖くないよ!勇斗が頑張ってくれたから私が今ここにに居るんだよね?そんな勇斗が怖いわけなんてないよ!」

「葵……」

「大体何を悲観しているのか分からないけど、変身してるだけなんでしょ!?なら普段は普通に人間なんだから気にすることないでしょ!?」

「でもオーガの力はリアルの俺の身体に少し影響があったりして──」

「だとしても!それでも勇斗は勇斗なの!私の!この気持ちを舐めないで!馬鹿にしないで!」

「ッ───」

「好きよ……勇斗……」


 葵の本気の気持ちがぶつかって来るのが分かる。

 俺は何をくよくよしていたのか?

 何をビクビクしていたのだろうか?

 今となってはただ恥ずかしいばかりだ。

 男の俺が、彼女にここまで言わせてしまったのだから……


 気が付けば変身を解いていた俺は葵の唇を、その中で蠢く赤い肉をも激しく求めた。

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