第10話 お昼休みにお弁当

 とある高校。

 四限目の終了のチャイムが鳴る。

 学校はお昼休みへと突入した。


「赤城ぃ~!学食行こうぜぇ」


 学食仲間が現れた。だがッッッッ!


「すまん。今日はパスだ」

「んん?コンビニでパンでも買ってきたのか?」

「いや…………」


 パタパタと音的に女子生徒であろう足音が廊下を掛けてくるのを耳にした俺はニヤリと口角を上げる。


「赤城くん!」


 教室の扉から肩で息をしながら現れたのは昨日の美少女ちゃん。


「約束通りお弁当作って来たわ!」


 衝撃の一言が発せられた。

 パワーのある一撃である。


「なん……だと……?」


 学食仲間が驚愕に震える。

 教室のざわめきが波が引くように静かになった。


「屋上に行かない?」

「いいね」


 彼女の誘いに乗るような形で俺が席を立つと、クラスメイトがにわかに騒ぎ始めるが気にせず彼女を連れて教室を出た。


 クラスからは悲鳴と怒号が溢れる。


「ああ!先を越された!」

「あんなストレートに誘えばいいだけなんて!」

「ってかあの子どこの子!」

「赤城君はみんなの共有財産なのにぃ!」

「あのような大和撫子が」

「鬼に汚されてしまううう!」

「ちからこそパワーの脳足りんのくせにいぃい!」

「下痢野郎がリア充にクラスアップだとおお!」


 下痢野郎と言ったヤツは次の体育の授業で分からせてやるしかないな。

 ちなみに内容はドッチボールらしい。

 怒血暴嚠ドッチボール。かの書籍によればトゲの付いた鉄球を投げ合うスポーツだというが、体現させてやるしかないようだ。


「楽しそうね?」

「楽しみにしていたからな」

「ふふっ。期待には応えられると思うわ」


 屋上に着いた俺たちは空いてるスペースに彼女が持参したレジャーシートを拡げてその上に腰を落とす。


「はい。約束のお弁当よ」


 手渡されたのは大きめのステンレス製の弁当箱。


「結構食べそうだと思って……」

「おう!これくらいならペロリと食べるだろうな」

「なら良かった」


 しかし、いい加減はっきりさせなければいけない事がある……


「ところで君の名は?」

「──────え?」

「いや、君は俺の名前を知っていたけど、俺は君の名前を知らない。昨日も思えば自己紹介すらしなかったしね」

「あ、あぁ……そういえば……」


 途端に彼女の空気が沈む。

 後でクラスメイトの誰かにあの子の名前知らん?って聞けば良かったのかもしれないが、その事が目の前の彼女に伝われば更に深いショックを与えてしまうだろう。

 ならばいまここで、改めて自己紹介するまでだ。


「改めて俺の名葉赤城勇斗。気軽に勇斗って呼んでくれよ」

「……そうね。私は山城葵。私もその……気軽にあおいって呼んでも……」

「分かった。葵だな。これからよろしく!」

「ひゃ、ひゃい!よりょしくお願いします!」


 そう言って俺が手を差し出すと、葵はおずおずと小さな手で握手に応じた。


「よし。これで心置きなく葵の手作り弁当が食えるってもんだな!おお!この卵焼きうまっ!」

「ふふっ。自信作なんだからね!」

「ミートボールも刻んだ生姜かな?練り込まれたこいつの食感がいいね!タレも甘くて美味い!」

「ふふん!」

「こんな手料理が食べれるなんて、葵の彼氏になるやつは羨ましいな!ってか彼氏居ないの?」

「居ないわよ!その、お父さん以外の男の人に手料理を振る舞うのも初めてだし……」 

「おお!マジか!葵の初めてもらったわ!」

「ちょっと!言い方!」

「ははははは!」

「うふふっ」


 楽しいお昼休みは空気を読めないチャイムによって直ぐに終わりを迎えてしまった。


「あの、良かったら明日も作ってこようかなって……」

「なるほど……」


 ブルーシートを片付けながら頬を染め、モジモジと言う葵に俺は大変キュンキュンしてしまった。


「それなら葵。俺の彼女になってくれ」

「え、ええ!?」

「君の手料理を未来永劫独占したくなったんだ」

「そ、そんにゃきゅうに」


 慌てた葵の手からブルーシートが落ちた。

 俺は彼女のオパールのような瞳をじっと見つめる。

 

「ダメか?」

「よ、よりょこんでー!」

「よっしゃあ!」


 感極まり、思わず葵を抱き締めてしまった!


「あ……ふっ……」

「あれ?葵!」


 このあと滅茶苦茶気絶した葵を抱き上げて保健室へと駆け込んだ!

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