第9話 黒髪の美少女

 空き教室。

 机の上に座り、脚を組むのは体操服の彼女。

 そして俺は彼女の前で正座させられている。


 窓が空いているため、彼女の黒く艷やかな長い髪がふわりと揺れる。

 切れ長の目に長い睫毛、通った鼻筋にぷっくらとした唇。美少女である。

 そして現在、彼女のオパールのような瞳が冷たく俺を睥睨していた。


「ダンスの授業を受けていた私が見たこともない怪物に襲われ脚を掴まれて引き摺られていたのは覚えているわ」

「そうですか」

「急に誰も居なくなって……私一人、ゴキブリが擬人化したような化け物に引き摺られて、白昼夢かと思ったけど掴まれた脚が痛くて……」

「今は痛くないなら夢だったんじゃ?」

「ならどうして私はココに居るの?あなたが助けてくれたんじゃないの?」

「そんなホラーな化け物からどうやって君を助けると?」

「そうよね……」


 彼女は腑に落ちないとばかりにため息を吐いて頭を振るう。


「ならやっぱりあなたは私を襲おうとしたの?人気のない空き教室に連れ込んで……その……いかがわしい事をしようとしたの?」

「滅相もございません!」

「そうよね……そもそも赤城君ってモテるし、わざわざ気絶した女のコをどうこうするほど飢えてないもんね……」


 名前バレしている衝撃!しかし俺は彼女の名前すら知らないという!これがアイドル現象か!


「ねぇ……くだらないこと考えてない?」

「いえいえ!俺としては気絶していた君をたまたま近くの教室に運び込んだだけでね?」

「保健室でも良かったんじゃ?」

「見るからにダンスの授業をしていたであろう女子生徒が校内で気絶しているところを発見しました!って言ったら君の立場が不味くならない?」

「あっ…………」

「サボりって思われるかもだしさ?」

「そ、そうよね……ごめんなさい。どうやら私が一方的に誤解していたようね」

「なら話は終わりだな。誤解が解けて良かったよ」


 俺はそう言って正座から立ち上がり、教室を出ようとしたところ、後ろから待ったが飛んできた。


「まって!仮にも助けてくれて、誤解したとはいえ暴力まで振るっておいて何もしないのは礼を欠くと思うの!」


 あなたの冷たい視線がご褒美でしたが!とは言えない。俺はヤツラと違って空気を読めるのだ。


「だから、何かお礼をさせて欲しいの……」

「そう言われても……俺、金とか物とか困ってないし」

「ならそうね……お弁当!明日お弁当作ってくるわ!」

「ふむ……ソレで手を打とう」

「ふふっ。なら明日、お昼の時間に教室へ迎えに行くから!期待してて!」

「オッケー!腹空かせて待ってるわ」


 俺は今度こそ話は終わりだと軽く手を振って教室を出る。


 そして耳鳴りからのアナザー・ワールドへ


 怪物を撲殺し


「なあなあ!竜也!美少女高校生の手作り弁当とかどうよ!」

「どうよって何が」

「明日俺に手作り弁当差し入れしてくれる美少女がおんねん!って話!どや!」

「ああ……青春してんね」

「反応薄っ!」

「いや、俺は家に彼女達が居るし」

「彼女……たち!?たちって何!それどこの日本語!」

「いや、アナザー・ワールドでたまたま助けた女のコが次々と居座ってしまってなぁ……最近マンションワンフロア丸々買ったんだわ」

「助けた女のコ!?ワンフロアって……えぇ!?」

「まぁオッサンの場合は助けても放置してるからな。俺にメリットないし」

「最後まで助けてあげて!剥げてデブで加齢臭くさくてもそこは最後まで助けてあげて!」

「嫌だよ。勇斗が助けてあげればいいよ」

「俺も嫌だよ!」

「アハハハハ!」


 世のおっさん達はドナドナされてもナムナムするだけとなりました。いや、実際は助けるけどもっ!

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