第8話 女子生徒

「おらあ!」


 俺がコンボーより細い、鉄の棒を振るう。


 その棒はカキン!と音を立てて飛んできたモノを空高く打ち上げると、そのモノ空の彼方へと消え去ってしまった。


「ホォォォームラン!」

「うっしゃあ!」


 校庭の野球部用のネットを飛び越えて何処かへ飛んでいった白球の行方は分からんが、白球一個失うだけで俺への黄色い声援が飛び交う。

 費用対効果素晴らしいね!


 ダイヤモンドを一周し、戻ってチームメイトとハイタッチ。


 投げては百五十キロのストレートに、ソレと速度が変わらぬスライダーとスプリットで凡退の嵐を作り出す。


 キャッチャーがシニア上がりの野球部員じゃなかったら取れなかったね!


 男子二クラス合同での野球の授業はオーガの力を宿した俺の独壇場だった。


 女子は別のエリアでダンスの授業だったのだが、どうにも男子(俺)の活躍が見たいらしく、先生と相談のうえ観戦となった。


 相手のチームのエースはシニア上がりの野球部員。

 そして現野球部の期待の新人だったのだがが──


「四打席四ホーマーって……」


 どうやら自信は打ち砕かれてしまったようだ。

 全打席真っ向勝負を挑んで来たあたりは素直に頑張ったなと思うが、チート持ちには通じなかった。


 授業の後に俺の球を受けていた野球部のキャッチャーが慰めに行っていた。


「諦めろ……アレは人じゃなくて超人だ。きっと一億万パワーはあるぞ」

「神が宿ってんのかよ……」

「バスケ部のエースもあいつとは競うのやめたってよ。人と神では争う次元が違うそうだ」

「くそぅ……下痢野郎のくせに……」


 そうやってそっと慰められた野球部期待の新人はその後がむしゃらに練習しまくったそうだ。

 下痢野郎などと不名誉なあだ名を付けてくれた彼には次戦も調教だ。


 そんな日常を送る中やはりヤツラは空気を読まない。


『キィィィィィン』


 学校内でもお構いなしに響くアラート。


「お腹痛いからトイレ!」


 席を立ちそそくさとトイレにダッシュする。

 下痢野郎は鏡の中へと飛び込むのだ!


「クソが!こんなんだから不名誉なあだ名が蔓延るんだ!」


【アクティベイト】


【チェンジ・オーガ】


【コンボー】


 怒りの鬼神参上!と言わんばかりにパンプアップした上腕で鉄バットを五本は重ねたような太いコンボーを振り回す!


 そこに絹を裂くような悲鳴が木霊する。


「悲鳴!?校庭か!」


 オーガとなった俺の五感は常人を超える。

 多少離れていても音が拾えるのだ。


 飛び出せば一人の女子生徒がゴキブリ怪物に足を持たれて地面を引き摺られているところだった。


 カッとなった俺は高さ三階の廊下の窓を突き破り、校庭へと飛び降りる。


 ズドン!という超重量が落ちた音と同時に土煙が舞う中、飛び出した俺は一飛びでゴキブリ怪物に肉薄する。 


「その手を離せえええ!」 


 ブオン!と暴力的な音を立てて振るわれたコンボーはゴキブリ怪物の頭部を胴体と泣き別れにする。


 ビシャッ!と飛び散った紫の体液が彼女にかかり気絶してしまった。


「とりあえず無事で良かったけど……証拠隠滅せねば」


 俺は一枚のカードを取り出しデッキに読み込ませる。

 

【クリーン】


 眩い緑色の光が彼女に飛び、包み込む。

 服や髪に掛かった紫の体液は綺麗に取り除かれた。


「これでよし」


 変身を解いた俺は彼女を抱き上げると手近な鏡を通ってアナザー・ワールドから帰還した。


 彼女を保健室へ運べればよかったのだが、上手い言い訳が思い付かず、空き教室に連れて行く事に。


 そっと床に降ろしたその時だった。


 目が合った。


 そしてパチリと開いた大きな瞳が、俺の腕が彼女の膝裏と背中に差し込まれているところを順に見る。


「誤解す──」

「きゃあああああ!」


 ドゴッ!と彼女の拳が俺の左目に突き刺さる。


「ぐぅおおお…………」


 流石のオーガさんも目は痛い!非常に痛い!

 ゴロゴロと転げ回るのだって仕方がないのだ!


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