名君の下に名将あり


「ふはははははは!!宰相に元帥か!これは大きく出たな!!」


俺の言葉に一瞬あっけに取られていた空気をヘンリク2世の笑い声が割っていく。周りの宮廷貴族たちの視線がヘンリク2世に集中した。


「そうでしょうか?これでも遠慮しているほうですが」


「ほう?これで遠慮してるか…貪欲な商人もここに極まれりだな」


面白そうなやつを見つけたような笑みを浮かべながらヘンリク2世は俺の方を眺める。


「では陛下、あの馬共に見合う正規な対価を陛下はお支払いできますかな?」


「むりだな。それは今我が座っている椅子ではないか」


ヘンリク2世は何の迷いもなく瞬時に答えた。俺もそれに笑みを浮かべながら。ゆっくりとうなずく。


「ええ、そして先ほども言った通りそれは私も望むところではありません。だからこそ宰相と元帥の任を承りたい」


「……商人にそれが出来ると?」


「商人だから、でございましょうか。政治とは集めた金をどのように扱うのか、またどのように金を集めるのかを決めることでございましょう。そして戦争は敵と相対して始まるものではありません。その前の、戦争に必要な兵士の数と給与、食糧や武器の費用。そのような金勘定から始まっているのです。むしろそれなくして戦争は始まりませんし、それなくして戦えば確実に負けるものです。元帥に必要なのは前線に立って兵士と共に戦う事ではありません。それに私はもともとタタール軍に所属していました。その知恵は将来必ず役に立つはずです。我が陛下」


「うむ。お前かべらべらと口が上手いのも商人だから、だろうな……宰相と元帥はどうだ?ふざけた性能を持つ馬のモンスター3万頭と、お前たちの首、どちらを我は取ればいいと思う?」


ヘンリク二世は楽しそうに笑みを浮かべながら隣に居る宰相と、先程卒倒していた高級軍人のようなおっさんに視線を送る。


二人の考えはすでにきまっていた。

それを代表してか、宰相の男は元帥に軽く目伏せをしてから口を開いた。


「愛しき殿下。私たちの老後を案ずるのなら私たちをお選びください。ですがこの国の未来と、殿下の老後を案ずるのなら馬をお選びください」


「我らは殿下の命に従うまでのことであります」


その言葉と同時に、二人の男が王座に向かって頭を下げた。


「うむ、やはりお前たちを選んで正解だった」


ヘンリク2世は満足そう頷くと俺の方に視線を戻した。


「我は部下にも恵まれたが、運にも恵まれていたようだ。今日お前との時間は誠に有意義なものであった。お前には宰相と元帥の任を与えよう」


宰相と元帥キター!!

うっほ!マジかよww本当になれちゃったww

今俺の手にこの王国の、いやこの大陸の命運がかかっちゃったよ。

ミスったらガチで戦犯じゃん!!負けたら後免!!

俺は死なないからいいけど、たぶん逃げる!いや絶対逃げるわ!!


「おぉ!!我が陛下の仁恵に感謝いたします!!必ずや神の軍団をもってしてタタールを粉砕してましょうぞ!!」


もうこうなったらロンできることにかけるしかねぇ……


「だが、条件がある」


お?これは一筋縄じゃいかない感じ?

俺の緩んでいた口元の筋肉が強張るのを覚えた。


「……なんでしょうか」


「お前の召喚する馬が本当に実践に役立つと言う保証はどこにもない。よって2週間後にシロンスクへ侵攻する!その成果をもってしてお前の宰相と元帥の任を与えよう」


「……は!!陛下の仰せの通りに!」



こうして俺は賭けに勝った。半分だけだけど。

ヘンリク2世は「我は腹が減った、細かい話はそこの二人と詰める様に」と言い残して、早々と王座の間から退出していった。


宰相と元帥も俺のせいで朝食食べれてないらしいけど、二人は文句も言わずに俺を別室に案内し、部下の文官武官たちと話を交えながら、契約の内容を詰めていった。

その結果――まず借りる馬の数に関してだが、亀甲馬と一角馬を10000頭ずつ。ペガサスと軍馬が2000頭ずつとなった。俺としてはまだそんな数を扱える兵士がいないだろうから少しでも良かったんだが、彼らの頭の中ではすぐに必要になるとのことだ。まぁ王国が統一されれば養える兵士の数も増えるだろうしね。ペガサスは主に上空からの奇襲や破壊工作を目的に使われると思う。なんかそんな話してたし、俺も彼らの立場ならそうする。数が2000頭なのは使用目的とは別に、ペガサスが人を選ぶという特徴のうえだ。そして軍馬だが、これは主にそのスピードと体力を生かした、偵察や伝令・警戒・補給に使われる。貸し出す馬の合計は24000頭。売り上げは毎月24000ペニー。年間で288000ペニー(5億7600万円)となった。あと軍事目的で俺がクラクフ公爵以外に馬を貸すのは禁止。クラクフ公爵も直轄軍をのぞいて他国の軍隊や、傭兵などの第三者に俺から借りた馬を貸すのは禁止。また公爵が直轄軍に貸す際は賃金を取ってはならないこと、それ以外での商業目的とした第三者へと貸与も厳禁。これらを破った場合は貸した馬の没収、もしくは違反者が一方に対し100万ペニーの賠償金を払うこと。そして公爵の騎士が借りた馬を第三者へ貸与することも禁止され、貸した場合は当事者の処刑が決められた。

また商業においても公爵が納めめる土地以外では、公爵の許可を取る事が決められた。まぁこれに関してた最初から、この公国の仮想敵を想定して自重してたから問題ない。そして最後にシロンスク地方の奪還の暁には正式に俺の宰相と元帥の任も契約に盛り込まれた。


あとそれとは別に俺、アキラカナ・アキラとヘンリク2世との主従契約も進められた。つまりは騎士叙任だ。


ついに?俺も貴族になっちゃいました。

まぁ流石に商人からいきなり宰相と元帥は前例がないとのことで。

それで近くの文官の人に騎士からは前例があるんかいと聞いたら、宰相はないけど、元帥はあるらしい。といってもこの国じゃなくて、1000年以上前にこの大陸の半分以上も支配した大帝国の初代皇帝がそうらしい。その時代にこの地は帝国領外だったらしいが、偉大な帝国様の前例があるからギリセーフらしい。

具体的な内容としては、年150日の軍役。その対価として年間3000ペニーの給与が支払われることになった。


そして城内の宮廷貴族たちの食事が終わったあと、急ピッチで開かれた叙任式が開かれた。といってもヘンリク2世が俺の肩を剣で優しくたたくだけなんだけどね。


その後はお昼まで滞在し、ヘンリク2世との会食。びっくりしたのが、ヘンリク2世は基本的に城の家臣や召使と一緒に食事するらしい。

てっきりナポレオンみたいな名君ルートかと思いきや、貴族は大体そうとのことだ。

ただ主人であるヘンリク2世と共に食卓を囲えるのは限られた高級官僚と、俺のような客人だけ。ほかの召使は部屋の片隅に立って、主人が食事を終えた後、その残飯を食べていた。でもみんなすごい美味しそうに食ってたわ。そりゃ貧しい農奴の食事よりは100万倍マシだけどさ。お前たちに人間としてのプライドはないのか?っていうのは俺が恵まれ過ぎているだけか…‥。


そして昼食を終えた俺は、ヤロスワフとマリアが監禁されている正門付近の詰め所へと向かった。



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