拘束


「この村にアキラというタタール人の犯罪者がいると聞いている!!すぐに出頭せよ!!これは領主命令であるぞ!!」


早朝から男の甲高い声が村中に響き渡った。

なんだなんだとマリアと一緒に屋敷の外に出てみれば、村のみんなも同じ様子であった。


「おかしな顔しやがって!お前がアキラというタタール人であるな!!罪なき者を殺した罪人め!!トルンまで連行する!!」


俺の顔を見るなりネズミのような顔をした男は、槍を持った衛士たちに指示を出すと俺をとらえようと近づいてくる。


「いや意味わからんって!は?来んなよマジで!!」


いきなりの理不尽な態度に俺は混乱と怒りで思わず素が出してしまった。


「抵抗するなよ!貴様に拒否権はない!!」


俺の肩を抑える衛士たち。

マリアは恐怖で体がプルプルと震えながら、足が硬直してしまっている。

ダメだ、ここで暴れたらマリアが危ない……。


「おい!俺が何したってんだ!!ちゃんと説明しろよ!!」


「お前がシモンという商人を殺したことだ!!」


はぁ?シモンって……あの軍馬に木っ端みじんになったあいつか⁉

あのクソババア!領主にチクりやがったな!!絶対に許さん……。


「それはそのシモンが契約を破ったからだ。俺が貸した軍馬を勝手に他の商人に貸そうとしたんだよ!!」


「だから殺したというのか!この蛮族めが!!」


ネズミ男は怒り狂ったように唾をまき散らしながら声を荒げた。

だが俺もその気迫に負けじと声を張る。


「俺は殺してない!!殺したのは軍馬だよ!俺の召喚する軍馬は頭が良いから契約を違反した奴の言うことには抵抗するように命令してあるだけだ!!」


「それはお前が殺したと同じではないか!慣習法には従魔の犯した罪はその従魔の主権者が負担することになっている!!貴様は殺人者だ!」


「だから契約書には貸した軍馬のトラブルは召喚主の俺じゃなくて、借りた本人が負担すると明記してある。シモンもそれに同意してサインした!あれはただの自業自得だ!!」


俺の反論にねずみ男は一瞬だけむっとした。自分が不利になりつつあるのを察したのかもしれない。だからか奴は話をそらし始めた。


「なら己の立場もわきまえず、暴論を振りかざすお前とお前のそこの妻が殺されようと、それも自業自得だ……私は犯人が抵抗した場合は、その場で処罰する権限を与えられている……」


「ひっひぁ⁉アナタ!!」


糞ネズミはそう言うと顎を動かし衛士に指示を出した。

二人の男がマリアの肩を掴み、拘束する。


「っ……お前!」


「さぁどうする!!抵抗してもよいのだぞ!その場合、真っ先に首が落ちるのはこの女だ!」



どうする……どうしよう!!

もう逃げるか?

マリアを置いて……やり直しはいくらでも聞く、異世界に飛ばされて着の身着のままここまでやってこれたんだ。俺のスキルなら場所なんてどこでも……だめだ。

この地域以外では言葉通じない……いやでも周辺の公国ならいけるか…。


一瞬だけ俺に迷いが生まれる。

確かにマリアは良い女だ。顔も性格もケツも。

村の雰囲気にも慣れて来たし、みんな少しづつ俺を受けてくれるようになった。

だが所詮は3か月程度の仲でしかない。

正直にいえば後腐れもなく逃げれる気がする……が……。


今、抵抗してあいつが殺されるのは流石に目覚めが悪い。

短い期間だが、毎日のように体を重ねた仲なのだ……。



「分かったよ……抵抗しない。俺をトルンまで連行してくれ」


「……いいだろう。分かればいいのだ。おい!その女を離せ!」


ネズミ男の命令でマリアの拘束はあっけなく解かれた。マリアは押さえつけられていた右肩を左手で押さえつつ、俺の元に駆け寄ってくる。その後ろではヤロスワフとナタリアが俺の名を叫んでいた。周りのみんなも不安げな表情を浮かべながら俺を見つめていた。


「近づくな!蛮族に身を売った汚らわしい売女め!」


ネズミの叫び声が聞こえるが、俺は無視しながら衛士に止められるマリアに話しかけた。


「肩は大丈夫か?俺のせいで済まない……ヤロスワフとナタリアも迷惑をかけた。また会えるか分からないが…心配するな。返ってこなければ俺のことは忘れろ。いいな?」


「ふざけないで!!無理よそんなの!!」


「へへ……そりゃあんな20発も出せる男はいないだろうしな」



こんな状況だからこそ何だろうか、俺はしょうもない冗談でも言って場を和ませようとしたのだが……。


「そうよ!!あんなスゴイ男なんてアナタだけなんだから!!だから絶対に帰って来て!!いい⁉絶対よ⁉アナタは私が他の男に抱かれてもいいの⁉」


縄で縛られ拘束された俺とマリアの距離は次第に離されて行く。



そうかい……正直隙をついてどっかにでも逃亡しようと思ったんだが……こりゃ返ってこないわけにはいかないか。




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