交渉



「改めまして、私がこの村の村長でありますヤロスワフです。この者は我妻のナタリア、隣が一人娘のマリアでございます」


村の屋敷にて、村長は自身の家族の簡単な自己紹介を俺にしてきた。

村長の一人娘であるマリアは素朴だが顔は整ってる。

といっても俺は白人女はあまり趣味じゃない。だってゴツゴツしてるし目がぎらついてるじゃん。実際、この屋敷に来るまでに村を軽く眺めてみたけど、女性の多くは俺の期待を裏切らなかった。でもマリアは俺の考えるステレオタイプとは違って、日本人が好みそうな顔つきをしている。


俺はすまし顔でちょっとエッチな妄想をしてしまう。


まぁそんなことは置いといて、客間の床のど真ん中には、俺と村長ファミリーに囲まれた幾つもの皿にハムやソーセージ、果実や白パンなどこの時代では豪勢な食べ物が乗せられている。


俺もうやうやしく頭を下げその礼にこたえた。


「厚いもてなし感謝いたします。私はタタールの部族の王子でありました明金昭と申すもの。この村に住まわせてくれることに感謝いたします。私に出来る事でしたら何なりと」


「それでしたら、食事でもしながらどうでしょう」


「いいですね、時間も勿体ないですし」


俺の返事を冗談だと思ったのか、三人は苦笑いをしながら食事に手をかけた。

なんつたって、この時代にフォークとかないしね。切り分ける用の大きなナイフだけで、基本は手づかみ。蛮族サイコー!!


食事をしながらこの地域の情報収集もかね、自身の軽い身の上話(嘘八百)をしながら少しずつ話の内容は先程の軍馬についてへと移っていく。


「それであの馬についてなのですが…どれほどの値段でお貸しいただけるのでしょうか」


村長の質問に俺はあえて悩むそぶりを見せながら答えた。


「そうですね……それでは一頭で毎月10ペニーでどうでしょう。もちろん契約は毎月ごとに行い、不要なら解約するという方針で」


「農閑期もありますからそうしていただけると助かります。10ペニーですか、そんなに安くてよろしいので?」


村長は少し不安げな表情で俺を問いただした。

この時代の馬は専門に訓練された軍馬であれが5000ペニー(1000万円近く)になる。農耕馬でも500ペニー以上と軽自動車並みだ。費用だって一頭だけでも毎月40ペニーもかかるらしい。

でもおれの軍馬食事はいらないから、固定費はほぼかからない。


この商談は彼らからすれば、あまりにもうまい話しすぎるだろう。


「ええ友好の証です。それにまだ開拓できていない土地はいくらでもあるでしょう?」


そうだ、俺は軍馬の時速100km/hで30分かけてこの村にたどり着いた。

この村から東と西、南には数キロ先に村と都市があるようだが、この村から東へ直線50kmにはこの村以外の人里はなかった。村長もクラクフ公国の公都クラクフからここへは普通の馬や馬車で一週間ほどかかるらしい。つまり田舎だ。東には丸二日かければマゾフィシュ公国に属する開拓村に到着するようだ。ちなみに中央のクラクフ公国を囲むようにこのような公国はあと五つあるらしい。なんでも元は同じ王国だったのだが、当時の王様の遺言状により王子たちに分割相続になったようだ。それでもこのクラクフ公国は各公国の宗主国として軍事と徴税、外交権に広大な権限をもっていたようだが、相次ぐ各公国およびクラクフ内での内戦をへてその権限は有名無地と化しているらしい。


国境付近の開拓が進まないのはそうした戦乱のせいでもあるらしい。


ちなみに1ペニーは今の物価に変換するとだいたい2000円ぐらいだと思う。たぶん。専門家じゃないから断言はできないけど、1ペニーあれば小さなパンが10から20個買えるからそんなもんだと思う。あ、この時代の普通のパンは俺たちが思っている以上にデカイです。大きなカボチャぐらいの大きさ。それが貧民ように小さく切り分けてばら売りしているのがあるらしい。

で、俺は一頭10ペニーとして10頭を貸し出す訳だから、まあだいたい月収20万円。それでも村長が言った通り農閑期もあるから、収入が減る時もあるだろうけど、秋の田植えもあるし、開墾もするだろうから100万円、つまり年収500ペニーは稼げるだろう。だいたいこの村の農民と同じぐらいの年収かな。あまり多くはない。

だが俺の元手はゼロだし、開墾の手伝いを除いて時間は無制限にある。

だが農民は種の費用や馬の肥料(これは村人全員で負担)などの経費、領主からの税を負担しないといけないため、額面そのまま貰える訳ではない。

税は契約により固定額のため豊作になれば良くて半分、そうじゃなければ4割3割を下回ることになる。

そういった意味では時間もゆとりがあり、まるまる設けられる俺の方がはるかに裕福だろう。正直おれがこの地の教えに帰依すると宣言したのはこれが理由でもある。


ユダヤ人への迫害を見ればわかる。

自分より優れた技能を持ち、金もある外国人。異教徒。

嫉妬、ねたみ、憎悪。厄介ごとには尽きないだろう。


だからといって田舎の寒村に引きこもるつもりは微塵もないが、少しでも不安の種は摘みたい。


話しに戻ろう。


「でしたら10頭ほどお貸しいただきたい。これから田植えをする予定でしたので」


「すると田植えをしながら新たな土地を開墾することになりますね…私も手伝いましょうか?」


「いいのですか?」


村長はものすごい驚いた顏をした。

まぁそうか、おれ蛮族のタタール人っていう設定だし。

農業なんて知らないと思ってたに違いない。


「お恥ずかしながら農業にはあまり詳しくないのですが、馬を使って犂を引くぐらいならできます」


「おお!ならそうしていただけると助かります」


こうして俺は交渉を無事に終えた。

それにしてもクラクフ語がお上手ですねと急に村長に褒められた。

タタール人がクラクフ語話してたらそりゃそうなるよね。


「以前に東の旅人に教わりました」と苦し紛れの言い訳をしたが、なんとか納得してくれた。


危うくボロがでるところだったぜ。

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