第一村人発見
「うっひょう!早すぎるっぴ!!」
景色が線のように過ぎ去っていく。
まさか時速100km/hがこんなにも早いとは思わなかった。
それになんの舗装もされていない原野をいとも簡単に走り抜けるとは…
おかげで体ががくんがくんと上下に揺れてちょっと気持ち悪い。
脚の力でなんとか馬の腹を抑えているが、おそらく人造人間の身体能力がなければ、馬の背中に股間を叩きつけて悲惨な目に遭っていない違いない。
軍馬に乗ってはや30分は経過しただろうか。
そうこうしていると、なにもない原野の先になにか点を見つけた。
なんだろうと目を細めながら見つめるうちに距離は縮まっていき、その点は次第に大きなっていく。
そしてやっと分かった。
「ん?……あれ……村じゃん!!」
小さくてよくわからないが柵のようなもので囲まれている。
周囲は雑草が刈り取られ、黒い土が見えた。
それに人もいる。
門番だろうか、目線の先には槍を構えた男?が立っていた。
「おーい!すいませーん!!こんにちわー!!」
聞こえるか聞こえないかという距離。
軍馬で全力で走り続けるうちに、小さな槍を持った小人の顏がかすかに見えた。
眼を見開き、なにかを叫んだと思うと門番は慌てて村の中に走り去っていく。
なにかまずいことをしたか……それとも部外者や外国人を怪しんでいるか?
言葉は通じるはずだが、俺はれっきとした誇り高きイエローピープル。
見るからに白人のような容姿をしていた門番だが、ヨーロッパのような文化圏であれば、アジア人のような見た目は変に見えるだろう。
まぁこれでも俺は鼻が高いほうだけどねっ……っと、村に近づくにつれ俺は馬の鬣を引きスピードを落としていく。
そして村の門にたどり着いたころには、先程の門番と一緒に武器をもった男たち4人組と、その後ろには明らかに村長的な老人が村の中からやってきた。
「止まれ!何の用だ!!」
「なっ!!タタール人!!」
「あの東から来てる蛮族か⁉」
「いや待って!待って!敵じゃないっ!!いやていうかタタール人⁉」
村長?のような老人から聞こえた言葉に俺は耳を疑った。
俺は勉学はあまり得意ではなかったが、それでも世界史なら多少は知っている。
タタール人。タタールのくびき。
世界史では13世紀中ごろに北東の高原から颯爽と現れてヨーロッパもとい、スラブ諸国を地獄に叩き落した騎馬民族、そのモンゴル人たちのヨーロッパ側からの呼称である。
彼らの言葉である程度この世界について予測がたった。
おそらくこの世界は地球のパラレルワールドなのかのしれない。
時代的にも13世紀で、モンゴル人に該当する騎馬民族が東の地からやってきている。
そして俺はアジア人。紫色のパジャマとかいう異国の服を着て、馬に乗りながら東から西のこの村にやってきた。
正確には日本人だが、彼らから見れば一緒だろう。俺だってドイツ人とフランス人の違いなんて見分けつかないし。
はやく誤解を解かなくては。
そこで俺は一計を案じた。
「もっとも!俺はタタール人だ!!」
「くっ!やはりか…聞き伝えの通り馬を巧みに操り、黄色い肌におかしな顔つき」
おい、それはいくらなんで言い過ぎ。普通に傷つくよ。
「ふむ…確かに俺はお前たちから見れば異様に見えるだろうな……」
くそ!なんかもうこのキャラで押し通すしかねぇか!
現地の人間からしたら俺は明らかに泣く子も黙る、狂気のタタール人だろうし。
「一人で何しに来た!」
「母ちゃんに股間でもしゃぶらせとけクソッタレ異教徒!」
「偵察か⁉」
「だとしたら逃がして返さんぞ!俺たちは死んでもお前らなんぞに屈せん!」
「そうだ!主が祝福されしの神聖な大陸を汚す蛮族に死を!!」
こいつら……いくらなんでも言いたい放題すぎ……。
まぁでもおかげでこの時代の人たちの異教徒や外国人に対する対応が分かっただけでもよしとするか。
「待て!早まるでない!俺は敵対するつもりはないぞ!話を聞け!」
俺の言葉に男たちは少し動揺するそぶりをみせた。
よく見れば、この騒ぎに村人たちも門付近に集まっている。
不安、警戒、敵対、お世辞にも友好的でない視線の数々に緊張であしもとが震えるのを無理やり抑え込み、堂々と胸を張りながら話を続けていく。
「ゆえあって俺はタタールの部族から追い出されたのだ!!恥を忍んで頼む!!この村に住まわせてほしい!」
「なっ!」
「ふざけるな!お前のような蛮族!それも異教徒を入れる訳がないだろう!!」
「そうだ!殺しちまおうぜ!そうすりゃ領主さまから報奨金をもらえれるかもしれねぇ!」
「いや待つのだ。話を聞こう」
「そうだ!話をきこ……えぇ⁉村長⁉」
明らかに不穏な空気を割ったのは、やはりあの老人。村長であった。
俺はこの機を逃すまいとすぐに話に入り込む。
「かたじけない!そこの御仁!聞くにこの村の村長でありますか?私の名は明金昭と言います!失礼でなければお名前をお聞きしたい」
「ヤロスワフ。ただのヤロスワフじゃ。そちらは貴族様ですかな?」
「似ていて分かりにくいと思うが、あきらかなが苗字であきらが名だ。我が部族では苗字が先にくる。私はある部族の王子……であった」
「おお、やはりそうでしたか……凛とした佇まいに言葉遣い。なによりその紫のお召し物。一目見て貴人に違いないと分かりました。どうか我らの無礼をお許しください」
そういって村長はうやうやしく頭を下げる。
その対応に周りの男たちは驚いたようで、その村長の禿げ頭を凝視した。
紫色?ああそうか……この時代は紫の色素は非常に珍しい貝殻からしか取れなかったんだっけ。そのせいで紫=権力の象徴だったんだよな。日本の冠位十二階とか紫が一番偉かったけど…あれもそうなのか?日本史はあまり詳しくないから……って!話の途中だった。
「……いやそちらの対応はもっともだ。我が同胞が随分と迷惑をかけていると思う。私もその行いの一翼を担っていたのだ。今更だがもうしわけない」
「いえいえそんな!この地はまだタタールは攻めてきておりませんからお気になさらず……それでアキラ様。一つお聞きしたい事が」
「なんですかな。それで疑いが晴れるのであればなんでも聞いてください」
「失礼ながら、どうして部族から追い出されたのでしょうか?それとその奇妙な馬は……」
「ああそうだ!その馬!なんだあの速さ!!尋常ねぇって!!」
思い出したように村長の質問にかぶせたのは先程、俺の存在を確認して慌てて村に逃げていった門番だった。
「ふむ……実はこの馬が理由なのです」
「それはどういう意味でしょうか?」
もったいぶった俺の話し方に周りの騒々しさは立ち消える。
村長を含め、周りの村人たちも俺の話を聞こうと真剣な顔つきで耳を傾け始めた。
「そうですね……説明するより見たほうが分かりやすいでしょう。軍馬召喚」
その瞬間、一気に3体の軍馬が出現した。
いちよう混乱を最小限に抑えるため、亀甲馬およびその他は封印した。
「なっ!魔法使い!召喚士⁉」
村長が驚きの声を上げる。周りの村人たちはその召喚士をあまり理解してないようであった。だがそれは当然だ。そもそも魔法使い事態が人口で数パーセントしかいないのだ。召喚士はその魔法使いのまた数パーセント、一国でも一人いるかいないか程度の存在である。簡単に言えばマイナー職なのだ。
それでも村人たちは今見た異様な光景に目と口を開け、驚きの声をあちこちで鳴らしていた。
「ええ。私はこの馬…もとい軍馬というモンスターを一日で500体召喚できるのです」
「500体……一日で……」
「この私の力を利用して元々田舎の弱小部族であった我らは、タタール皇帝の直臣にまで上り詰めたのです……だが陛下は私の力を……私が召喚した馬を完全に自分の物にしようと私に迫った。だがこの馬は私の財産であると同時に、日々の糧を産む大切な道具でもある。当然私は拒んだ。そしたら今度は無理やり奪おうとするのでな、召喚していた1万に及ぶ軍馬を消し去り、ここまで逃げて来たのです」
「一万の召喚した馬を消し去った……のですか?」
村長は信じられないといった様子であった。
「ええ、召喚士と召喚した馬は魔力のつながりをもつ。そのためいつでもどこでも召喚した馬は消すことが可能ですよ」
俺の言葉にまたどよめきが走った。
「門番による話では、とてつもない速さであっという間に数キロを駆け抜けて来たと聞いておりますが……」
「はい、先ほど言ったように私が召喚できる馬はただの馬ではないのです。軍馬と言ってこれは軍隊でつかうと言う意味ではなく、そういう名前のモンスターなのです。」
「モンスター……確かに普通の馬より一回りも背丈が大きいですが……」
「見た目は普通の馬に見えるでしょう?だがこいつは最高時速100km/hで走る優れもの。それにその最高速度を丸一日維持しながら走り続けることが出来る!!」
「なんですと⁉それは本当ですかな⁉とてもじゃないですが信じられませぬ」
そりゃそうだろであろう…なら見せた方がいいな。
「おい、とりあえずこの村を一周してこい。全力でな、だが畑は踏むな」
俺の命令に3体の馬はひひんと鳴き声を上げると土煙を上げながら一斉に走りだした。そしてはなか数十秒で走り去った反対の方角から、また3体の馬がこちらの方で突進してくる。
そのスピードと迫力に、あちこちで悲鳴とも取れるような声が聞こえた。
「ご覧の通りです。とても早いでしょう?。頭もいいのね簡単な言葉なら理解できます。こちらの村でも馬はいますか?」
「えっええ……ですがあくまで農耕馬ですから…アキラ様が召喚する軍馬と比べるほどでもありません……」
「なら良かった。このスピードを見れば分かると思いますが、私の召喚する軍馬はとても力強く体力も優れていますから、数トンの重さであれば楽に引っ張ることが出来るでしょう。それに召喚モンスターは食事と睡眠を必要としません。一日に数十分の休憩があれば、丸一日働けます。この村の農耕馬は一日でどれほど土地を耕せますか?」
「休憩を挟みながら一日…10時間程やらせて1エーカーほどです。これでも牛にやらせるよりは早いですが」
「なるほど、それでは新しい土地を開墾するのにも一苦労でしょうな。ですか私が召喚するこの軍馬があればどうなるでしょう?単純な馬力なら普通の馬より5倍以上はあります。想像してみてください。一日、いやひと月でどれほどの新しい土地が耕せるのか。この村を囲む広大な原野があっというまに黄金の麦畑になるのです。それに馬車にして引けば今の馬車の5倍以上の穀物を、今よりもっと早く都市に売ることができるのです。移動も楽になります。私を村に住まわせてくれるのであれば、売ることはできませんが安くお貸ししましょう。あなた方が信仰する主の教えにも帰依します。どうですか?」
俺の問いに村長もとい、村人たちは眉間にしわを寄せながら声をうねらせた。
だがこの話が本当であるのなら、いくら外国人、それもタタール人であったとしても村に住まわせた方が自分たちに利益があるのは明白なはずだ。
「いいでしょう。遠方より来る異国の客人よ、この村へようこそ。歓迎いたします」
こうして俺はなんとか第一原住民との衝突をさけ、彼らの村へと歩を歩ませた。
あっ、召喚していた4体の馬は消しました。
また驚かれたけど、むしろおかげで俺の話しに信憑性が増したと思うから結果オーライってことで。
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