そこに愛はありました
「これガチィ?ガチよりのガチ?……だよね」
ズボンとパンツを履いた俺は見渡す限り草原の風景を眺めながら、途方に暮れていた。寝起き姿のパジャマ。当然、食べ物もスマホもないし、なにより裸足。
そしてこれが異世界だとすれば、モンスター的な存在が居る可能性もある、なのに武器だってない。普通こういうのって神様的な存在が現れてスキルとかアイテムくれるんじゃないの?
なんで寝起きなん?なんでパジャマなん?なんで裸足でスマホもないん?
そこに愛はあるんか?信じられる愛は……あっ。
その時、おれはある事を思い出した。
「……ステータスオープン!」
此処が異世界であるか簡単に分かる方法を。
「うおっ……本当に出た」
『ステータス』
種族 ヒト科ヒト族人類種モンゴロイド系・
名前
年齢 20歳
力 300
守 100
魔力500
スキル
馬召喚(軍馬・亀甲馬・一角馬・飛ぶ馬)
高燃費 再生 アイテムボックス
クラクフ語
自分のステータスを見た瞬間、頭の中に大量の情報、映像が流れ込んでくる。
「あっ……っ」
馬召喚の使い方。各馬の特性。スキルの制限
高燃費の意味。再生やアイテムボックス、謎言語の内容。
すべてを俺は理解してしまった。
「はぁ……はぁ…はぁ……もう本当に異世界なんだな……くそ…」
馬召喚はその名の通り馬を召喚できるスキルだった。
一体ごとに魔力は1消費される。
消費魔力は個体による違いはなく、どれも同じだ。また召喚した馬と召喚主の俺には魔力の繋がりがあるらしく、どこにいても場所が分かる。
そして召喚した馬は返還することも可能なので、仮に馬が盗まれたとしてもいつでも馬を消すことができる。
これなら色々とやりようがあるだろう。
だが問題がある。
こいつら普通の馬ではなかった。
まず軍馬。
これは軍隊に使われる馬という意味ではなく、軍馬というモンスターらしい。
でましたよ、本当にモンスターっているのか……。
じゃあゴブリンとかオークとかドラゴンもいるよな……。
おっと、少し話しがそれたがこの「軍馬」というモンスター。
試しに召喚してみる。
「軍馬召喚」
うん、見た目は普通のサラブレッドだ。
だがこいつの凄さはその中身。
性格は好戦的だが、人間には従順。
召喚主の言うことは絶対に聞くし、単純な言葉なら理解できるらしい。
また寿命はないらしい…正確には召喚主が生きていれば永遠に生きるそうだ。
逆に死ねば召喚された馬、もといモンスターは自然に消滅するらしい。
それに生殖機能もないし、感情もない。性格は感情じゃないのかと疑問に思ったが、まぁあきらかに普通の生物ではないだろう。
そして最高速度は時速約100km/h。
一日での最長走行距離は約2400km。
つまり最高速度で24時間走り続けられるらしい。
ちなみに地球の馬の最高速度はたしか90kmいくかいかないかぐらいだ。
走行距離だってロシアの馬が24時間で284km。時速にしたら10km前後。
これなら自転車より少し遅いぐらいだ。
サラブレッドは時速60kmのスピードで4km進むことが出来る。
つまり全力疾走は4分しかもたない。それでもすごいが。
休憩をはさみながらゆっくり進めば一日で大体50km進める。
でもそうなると人間の歩くスピードほとんど変わらない。
つまりこの「軍馬」は正真正銘のモンスターである。
当然、こんなスピードと体力を可能にする「力」で蹴り飛ばされれば、俺なら木っ端みじんになるだろう。というか与えられた情報ではなるらしい。
そして次に亀甲馬
こいつは体中が鋼鉄と同じ硬度をもつ甲羅のような鎧に身を包んだ馬だ。
背丈は軍馬と大して変わらないが、骨格はよりガッチリとしていて、まるで体格は牛みたいだ。全身の甲羅も相まって馬専用の鎧をつけている様な姿をしている。
最高速度は約70km/h。
最高走行距離は約1500km。
性格は軍馬と一緒だ。
うん、ばけもん。
次に一角馬。
まぁ簡単に言えばユニコーンだ。
全力で突進すれば、長さ50㎝の鋭い角で亀甲馬の甲羅ぐらい余裕で貫くらしい。
つまり人間の鉄の鎧なんて簡単に貫けるのだ。
例えば中世ヨーロッパのフルプレートアーマーの厚さは約2㎜。
それでもロングボウや強力なクロスボウじゃないと貫くの難しいが、普通の短弓やクロスボウなら簡単にはじける。
そして亀甲馬の甲羅の厚さは1センチ弱ある。それを一角馬は突進すれば簡単に貫くのだ。
ちなみに最高時速は約70km/h
走行距離は約1500kmある。
こいつの性格も軍馬と変わらん。
最後にふざけた名前の「飛ぶ馬」もといペガサス。
こいつは片翼2メートルの天使のような翼をもつ馬で、空が飛べる。
地上での速度は約70km/h。
一日の走行距離も亀甲馬と一角馬とかわらず約1500km。
空中での速度はあまり早くなく、時速40km。
最高飛距離は200kmとそれでも十分すぎるほど化け物。
だが性格は少々難があり、召喚主の言うことは聞くのだが、それ以外の人間に対しては個体ごとに好き嫌いがあるらしい。嫌いな奴が無理やり乗ろうとすると暴れて、蹴り飛ばすようだ。プライドが御高いのだろう。
そして謎言語であるクラクフ語。
自分の中では日本語なのだが、与えられた情報いわく、俺はこの地方にあるクラクフ語を話しているらしい。そして他の言語は分からないとか。とりあえずこの周辺であれば言葉には困らないという事か。
で、つぎは問題児の高燃費くん。
これは簡単に言うと沢山食事を取らないと餓死するスキルだ。
糞いらない。
なんでもホモンクルスは普通の人間より力がつよく、再生というスキルを持っている代わりなのか、燃費が非常に悪いらしい。
あとこの再生というのは細胞のひとかけらでも生きていたら再生するバケモノチートスキルだった。俺は神様に愛されているようだ。
だが逆に言うと人造人間を倒すためには戦うのではなく、食べ物を手に入らない様にすれば問題ないと……当分、モンスターを恐れる必要はなさそうだが……神様…きついっす。だって俺が現地の権力者とかと敵対して、人造人間だってことがばれたらさ、俺に食糧を売る事を禁止する法令とかだって出されるかもしれないやん。日本のヤクザみたいにさ。せめて食糧とか用意しておいてよ。
でも与えられた情報にはアイテムボックスの中身は空っぽということで、本当に俺は着の身着のまま異世界に飛ばされたらしい。
そこに愛はありますか?
まぁ落ち込んでいてもしょうがない。
とにかくここから移動しないと。
だが俺は今、絶賛中で生命の危機にあった。
お腹が減ったのだ。
さっきからスゴイ勢いで胃がぎゅるぎゅる鳴ってるし、
荒れ狂う胃酸のせいでなんか胃が痛い。
与えられた情報はステータスに関係する簡単な説明ばかりで、人間や人里に関するものはなかった。
どうしよう、どっちに進もう。川とかあればよかったんだけど。
太陽って東から上るよね?東に行くか?それと西か……。
…………いや待てよ。
なんで俺は歩いていこうとしてんだ。
おれ馬「乗れる」のに。
そう俺は馬に乗れる。
俺は馬、というか騎馬民族が好きなのだ。強くて速くてカッコいい。
いくつもの敵を圧倒的な暴力と戦術で粉砕し、男は殺し、女は犯す。
奪った金で宴の毎日。まるで男の欲望をぎゅうぎゅう詰めにしたような民族だ。
みんなだって一度は夢見たはずだ……そんな日々を。妄想を。
おれは20になってもそれに囚われて、俺は日々チンギスハーンやバトゥなんかと自身を重ねながら、毎週の休みには地元北海道の牧場で、乗馬体験を楽しんでいた……そのおかげか彼女は一人も作れず童貞です…はい。
俺は召喚した軍馬にさっそうと乗る。あぶみも騎座もないから大変だが、人造人間の身体能力と地球で培った乗馬スキルがあればなんとかなる。
おれは馬のたてがみを掴みながら、西へと駆け出した。
そういえばステータスに乗馬のスキルがなかったが、なんでだろう?
地球で獲得した能力は反映されないのか?
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