エピローグ
***
その後、改めてクラーク殿下と婚約を結び、結婚式は日を改めることでお開きとなった。私はウエディングドレスから地味な紺色のドレスに着替えて更衣室から出る。両親と兄様が「事後処理は任せてほしい」と満面の笑みで言っていたのだが、怖くてそれ以上何をするのか聞けなかった。ブルーノ殿下、キャロル、ガンバ。
(……にしても、私の覚悟とは一体。まあ、読書生活が守られたのならよしとすべき?)
大聖堂の廊下を歩く。まっすぐ行けば自分の家の馬車が止まっているはずだ。
それにしてもなぜクラーク殿下が私と婚姻を望んだのか。
いろいろ考えたが、お飾りの王妃としてちょうどよかったのだろうと結論に至った。
「いやいやお飾りの王妃じゃなくて、ちゃんと俺のお嫁さんにしたいから結構頑張って駆けつけたんだけれど?」
「えっと」
「これからは婚約者になるから気軽にクラークと呼んでくれるかな」
「クラーク殿下、……そのどうして私と婚約を?」
待ち伏せしていたのか廊下の壁に寄りかかっていたクラーク殿下は私に歩み寄った。
私に手を差し出しエスコートを買って出たので、その手を掴むと口元を緩めて嬉しそうに笑った。その姿はどう見てもキャラ崩壊しているほどに柔らかくて眩しい天使のような笑顔だ。そういえば前世でこんな風に笑う子がいたような。
「そりゃあ、
(…………脅しって聞こえたような、ん、え?)
奈津紀ねえちゃん、そう私を呼んでいたのは近所に住む八つ下の男の子だ。天使のように可愛い顔をしていた――のだが、まさか。
「え、もしかして
「うん、そうだよ」
「うわぁ。懐かしい!」
ついいつもの癖で頭を撫でてしまった。いや彼が頭を下げたので、撫でやすかったのもある。昔から何か良いことをしたら私に報告をして「頭を撫でて」とせがんできたのだ。なんだか随分昔のようだ。
「正確に言えば憑依みたいなものだから、転生とは違うのかも? でも、奈津紀ねえちゃんが他の男に奪われる前で本当によかった。ここ一年、頑張ったんだよ。あのお邪魔虫の排除とかいろいろね」
(お邪魔虫? もしかしてヒロインが学院に姿を現さなかったのって……?)
「奈津紀ねえちゃんに会うために頑張ったんだから、いまさら俺の申し出を断らないよね?」
有無を言わさない迫力と、色香を前面に押し出してきた
一難去ってまた一難。
私ののんびり読書生活が遠のいたのを察した。
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!? あさぎかな@電子書籍/コミカライズ決定 @honran05
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