第23話
パトリシアは目の前で起こっていることが理解できないでいた。あの怪物に連れ去られた後、パトリシアはご
目の前に美しく盛り付けられた
しかし、その期待を裏切ったときの怪物の反応は分からなかった。
ええい、ままよ! パトリシアは腹をくくって目の前のヤマネの
しばらくの間目を
こんなに美味しいものは王家の祝宴の席でも出たことはない。柔らかな肉質にコクのあるソース。空腹のパトリシアにとっては最高のご
パトリシアは
恐らくこの目の前の怪物は古代ロンデルニア帝国が世界に残した
しかし、ふたを開けてみればどうだ。
パトリシアは自分がなぜこれほどまでにもてなされているのか理解できないのだ。目の前の怪物に
しばらくして、剣闘士の格好をした怪物はパトリシアの前から動いた。今までじっと
が、次の瞬間体を固くした。新たに現れた鉄格子を背負った怪物が小鬼を闘技場に放ち始めたからだ。無数の
パトリシアはいったい何が始まるのかと恐怖で体を震わせた。まさか私をこの小鬼の群れの中に放り込んでその様子を楽しむつもりなのだろうか。
しかし、その
一匹の小鬼が胸を短剣で貫かれ、ぴくぴくと手足を
パトリシアは理解ができなかった。なぜこの怪物は小鬼を殺しているのだろう? そして、それをどうして私に見せているのだろう?
しかし、考える暇もなくパトリシアにずいと剣闘士の怪物が顔を近づけた。
「ひっ!」
パトリシアは思わず短い悲鳴を上げてしまう。剣闘士の怪物のどこか無邪気な目の向こうから死んだ小鬼の
いったい何をすればいいのだろう? パトリシアは恐怖に駆られて固まった。が、なんとか口の端を持ち上げて
はたから見ていても嘘だと分かるような笑みだったが、それを見ていた怪物の反応は劇的だった。
瞬間、闘技場に
その大声量に心臓が飛び出そうなほど驚いたパトリシアは、胸を押さえながら怪物の様子を
よかった、どうやら私は正しい選択をできたらしい。そう胸を
そこには虐殺が広がっていた。
もはや戦いなどとも呼べない、一方的な力による
闘技場のあちらこちらで血しぶきが舞い上がる。ようやく小鬼の断末魔が
その姿にパトリシアは恐怖した。いったい何なのだ、この怪物はいったい何をしたいのだ。
パトリシアが我に返ると、あの剣闘士の怪物が再び期待をこめた視線をパトリシアに向けていた。
パトリシアは今やはっきりと怪物の望むことを理解していた。ぎこちなく笑みを浮かべる。怪物は満足げに剣を天に掲げた。
これで終わりだと安心したパトリシアは、再び裏切られた。再びあの鉄格子の怪物が小鬼を闘技場へと連れてきたのだ。
パトリシアは恐怖で
ぞっとする。そんなもの、一週間もすれば心が死んでしまう。
しかし、パトリシアにできることは決まっている。求められたときに無理やりにでも笑みを浮かべること、ただそれだけだった。
そうしてパトリシアが絶望してから何回小鬼の
何も考えない。この先のことも、この狂った現状も、目の前で失われていく命も。そうすればすくなくとも今は心に傷を負わない気がした。
パトリシアの視界が灰色に
しばらくして、小鬼の悲鳴がいつまでたっても聞こえてこないことに気がつく。目の前では闘技場の怪物が
なんだ…? 何が起きた…?
パトリシアの頭の中に疑問符がいくつも浮かぶ。やがて、かつてボルゴグラード城で嫌というほど聞いてきた、
次第にパトリシアの視界に色が戻ってくる。まさか。
青の
その特徴的な真っ白な髪が風にたなびいていた。
パトリシアは思わず立ち上がり、観覧席から身を乗り出す。そんなパトリシアに気がついたように、闘技場に姿を現した一人の騎士は手をあげた。
「なぜ、なぜここに………。」
パトリシアの唇がわなわなと
「に、逃げろといったはずだ! 私など見捨ててしまえと!」
騎士は、肩をすくめる。
「はっきりといって、パトリシア団長。
あなたは最後におっしゃいましたよね。
生きろ、どんなときであろうと前を向くんだろう?、と。」
騎士は、全く頼りにならない今にも折れそうな木製の剣を構える。
「僕は底抜けの馬鹿なので、前を向いた結果、団長を助けて一緒に生きて帰ることにしました。」
今、一人の騎士が
「北方騎士団が剣、ショルツ・ド・バイヨン、我が信念にかけて何があろうともパトリシア殿下を救い出してみせましょう。」
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