第19話
その怪物が、ふわりと飛び上がる。
嫌な予感がした僕とマルグレット卿は横に飛んだ。次の瞬間、凄まじい
僕とマルグレット卿を
しばらくの間、石像も僕たちも少しも体を動かさない。沈黙が周辺を支配した。
すると、怪物はいきなり飛び上がって、闘技場の屋根へと戻る。そして、先ほどまで見ていた方向へと建築物の屋根を伝って移動していった。
一瞬ほっとして、僕はとんでもないことに気がつく。
あっちはパトリシア殿下のいる広間の方向じゃないか!
「マルグレット卿!」
ほとんど悲鳴のような僕の声にマルグレット卿は何本か矢を放つ。が、怪物はするりするりと避けてしまうと、そのまま広間へとすさまじい勢いで向かっていった。
それと同時に、周囲の石像たちが一斉に動き出した。僕が怪物を追おうと走り出した
僕は
が、次の瞬間脇から飛んできた矢が石像の
「ショルツ卿! ここは私に任せて、殿下のもとへと急いでください!」
マルグレット卿の
それでもなんとか僕の進路を塞ごうとする石像を、マルグレット卿の矢が狙い打つ。
並みの騎士には
ようやく石像の群れを抜けたと思った時、あらかじめ
勢いよく振り下ろされた鉄球は石の
驚いたような石像の表情が
すぐ背後で石像の頭部が大地と激突する
全身の力を
怪物があの広間の天井を破壊し始めたのと、僕が大広間の入口に辿り着いたのとはほとんど同時だった。
どうやらあの怪物にとっては大広間の巨大な石製の扉ですら
僕は怪物に気付かれないよう広間の中に入ると、
驚くべきことに、パトリシア殿下は剣を支えに立ち上がって広間から逃げようとしていた。
「殿下!?」
「お前が言ったのだろう? 生きなければいけないと。」
パトリシア殿下が笑みを浮かべる。僕はふらつくパトリシア殿下に肩を貸し、共に広間の出口を目指した。
あともう少し、あともう少しで入口に辿り着く………。
しかし、そううまく事は運びそうになかった。ひときわ大きな
僕とパトリシア殿下が天井を見上げると、顔を仮面で
「パトリシア殿下、失礼!」
「な、ショ、ショルツ、何を!? きゃあ!」
パトリシア殿下が普段聞きなれない驚きの声を上げるのを聞かなかったことにして、僕は殿下を横抱きにした。殿下が我に返って僕の首に手を回す。
「緊急時ゆえ、ご
僕は全速力で大広間を
怪物はしばらくは広間から出ては来れないだろう。僕とパトリシア殿下はひとまず立ち止まり、息を整えていた。
殿下の吐息が首元にかかる。今までの
僕がそんなことを考えていた時だった。爆音をたてて広間の入口が吹き飛ぶ。僕はぎこちなく振り返った。
僕の肩越しに
入口を吹き飛ばした怪物が、ぎろりとこちらを
僕は
怪物の影が
入り組んだ
怪物が待っていたといわんばかりに飛び降りてきた。
殿下を抱える僕は剣を抜くことができない。が、僕は心配していなかった。僕の背後から目にもとまらぬ速さで矢が飛んでくる。
その矢は寸分違わず怪物の仮面の
「――――――――ッ!」
言葉にならない悲鳴を上げながら怪物がのけぞる。やがて怒り狂った様子の怪物は遠くの建物の屋根の上にたつ人影を
マルグレット卿だ。急いで走ってきたのだろう、マルグレット卿は肩で息をしていた。
僕は殿下を抱きかかえたまま、その建物の屋根まで力いっぱい
「マルグレット卿、あの怪物は僕がここに足止めします。その間に殿下を安全な場所へと。」
マルグレット卿が頷くのと、怪物がその手のロングソードを屋根に振り下ろすのはほとんど同時だった。
マルグレット卿はすぐさま後ろを向いて駆け出した。怪物もパトリシア殿下を追いかけようと体をかがめる。飛ぶつもりだ。
僕はすぐさま建物から飛び降り、そのむき出しとなったアキレス腱に一撃を見舞った。
僕の剣では断ち切れはしないものの、怪物には貫くだけでも激痛が走ったらしい。
足を抱えて倒れこんだ怪物は僕に向き直り、凄まじい憎悪をこめた目で僕を
これ見よがしに巨大なロングソードを振り回す。どうやら僕を始末してから殿下を追いかけることにしたらしい。
望むところだ、僕もちょうどお前にさんざんいたぶられたのだから。先ほどまでは殿下のこともあって剣を
足を前に、腰をひねって剣を構える。
「来いよ、怪物。串刺しにしてやる。」
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