第18話
坑道が
あの後、僕とマルグレット卿で坑道を掘り起こそうと必死になったが、三回目の
都市中を散策したが、出口と思しきものは何もなかった。
いったい古代ロンデルニア帝国の人々はどうやってこの街を行き来したというのだろう。
僕は必死に頭をひねった。広間の真ん中でぎこちなく踊ってみたりと馬鹿なこともしてみた。
しかし、何よりも絶望的だったのは脱出手段ではなく食料だった。水も、食べ物もほとんどない。
この都市はそういう人間が生きるために必要なものが完全に
すでにパトリシア殿下は限界を迎えていた。動くこともままならず、横たわったままになっている。
僕は携帯していた革袋にわずかに残る数滴の水で殿下の
「…ツ。……ショルツ。こっちへと来てくれ。」
ある時、か
僕はだるい体を起こして床の彫刻の上に敷かれた僕とマルグレット卿のサーコートに寝転んだパトリシア殿下のそばに寄った。
「ショルツ。もう、私は駄目だ。私にかまうな、お前が生きることだけを考えよ。」
「団長、ご冗談もほどほどに。さあ、もう少しお休みください。必ず外へと通ずる道を見つけてみせますゆえ…。」
「お前はずっとそうだな。そう繰り返されれば猿だろうと察してしまうぞ。見つかる見込みはないのだろう?」
「それは…。」
僕は返す言葉が浮かばなかった。
「ショルツ。私はな、ずっとここに寝転がって退屈だった。だからか、ずっと今までの人生を振り返り続けていた。
なんと
だから頼む、私はもう二度と足手まといにだけはなりたくないのだ……。」
どこか
「ですが、身も
「そうか、王族というものは己の死に
今となってみれば、私には王族としての
王族に生まれた時から私の人生はこうなる定めだったのだろう。」
なんだ、その言葉は。その、生きて帰るのをすでに
「なんですか、パトリシア団長。いつもの自身に
確かに現状は
しかし、そこで諦めてしまったら
言いきる。僕の大声が
パトリシア殿下は目を丸くして僕を見ていた。
「ショルツ、お前らしくないな。そのように声を
恥ずかしくなって僕はそっぽを向いた。
「誰だって死にそうになったら熱くなりますよ。生きたいですから。」
「そう、だな。ショルツ。お前の言うとおりだ。生きなければ、な。」
自分に言い聞かせるようにパトリシア殿下が
広間の外では、マルグレット卿が壁によりかかって目を
「パトリシア殿下の様子はどうでしたか?」
「すこし元気をなくされていたが、立ち直られました。待たせてしまって申し訳ない、行きますか。」
僕は覚悟を決めて闘技場を
理由は単純で、パトリシア殿下だ。
様子がおかしくなった時、パトリシア殿下は確かに闘技場の方向を向いていた。まるで、そこに殿下を呼び寄せる何かが存在するように。
あきらかにあの闘技場には何かがある。だから今の今まで後回しにしていた。だが、もう後がない。先ほど殿下に僕が言った通り、前を向かなければいけない。
僕とマルグレット卿、二人で闘技場へと続く道を進む。やがて、遠くに見事な石造りの闘技場が見えてきた。
城だといわれても
闘技場の下に辿り着く。闘技場には無数の石像が
一つ一つが見たことも無いような大きさで、闘技場を支えるように支柱に彫り込まれた最も大きいものはボルゴグラード城とほとんど高さが変わらなかった。
何が起こるのか分からないような危険地帯にいながら、
その時だった。
ゴリゴリゴリゴリ………。
岩と岩とをすり合わせたような、
「はっ?」
理解の追いつかない現象に、思わず声が
闘技場中の石像が命を吹き込まれたように動き始めていた。
マルグレット卿の顔が次第に
石像たちはみな剣闘士のような恰好をしていて、各々手に多彩な武器を持っていた。盾に
そんな殺意むき出しの石像たちが無感情な表情をしながら僕たちを取り囲んだ。
僕は剣を取り出す。が、石像に突き刺すつもりはさらさらなかった。
岩に突き刺したらそれこそ剣が折れてしまうし、そもそも石像に比べこんなに小さな剣を突き刺した所で石像が動きを止めるとは思わなかった。
それはマルグレット卿の矢も同じだ。
二人して
最初に見えたのは真っ赤なマント。二本の腕で巨大なロングソードと盾を持ち、背中から生えた無数の細い腕で短剣を握る怪物。
しかし、最も目を引くのは、その奇妙な鎧だった。
隙間なくびっしりと人の顔をかたどった黄金の仮面を張り付けたその皮鎧は、その怪物の異様さを強調しているのだった。
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