第17話
「何なのですか、これは……。」
マルグレット卿が呆気にとられたように呟いた。僕も同意だ。今まで僕が見てきた建築物でも、これほど
いったい何人の
僕はふと思い当たる節があった。もしかして、小鬼が地下を恐れて近づこうとしなかったのはこの場所が関係しているのかもしれない。
急に怖くなる。ここにはいったい何者が
僕はまず坑道内に転がっていた石を放り投げてみた。コロンコロンと見事な彫刻の上に石が転がっていく。しばらく様子を
そうっと広間に足を踏み入れる。周囲を見渡しても、人影はおろか何一つ見つけることは出来なかった。ただ見事な広間が前後にひたすら続いているだけだ。
安全を確認してから、僕はマルグレット卿とパトリシア殿下を手で
マルグレット卿は周囲を警戒しながら、パトリシア殿下はどこか
「マルグレット卿、ここがどこか分かりますか?」
「………いいえ、さっぱりです。」
貧乏騎士家の出身である僕と違って北方騎士団内でも
「古代ロンデルニア帝国だ。」
「インペラトゥム・ロンディニカ、太陽をも征服した帝国………。かつて王国の初代国王、シャンドラニウス一世が
パトリシア殿下が信じられないといった風に唇を
「見ろ、あの
広間の
大広間をひたすら端に向かって歩く。あまりにも広いこの部屋は、
ようやく巨大な石造りの扉へとたどり着く。その扉を開けるのを早々に
大広間を出て、振り返る。見上げると首が痛くなりそうなほど高い巨大な建物が、白い石組みの壁に半ばめり込むようにして
視線を前に戻すと、そこには巨大な地下都市が広がっていた。地下都市は中央が盛り上がっていて、その中心には巨大な
僕はふとそのドームの一部が
しばらく周囲を探索して、気がついたことがあった。人が住んでいる気配がまったくないのだ。
巨大な建築物は
この街は、まるで巨大な彫刻のようだ。人が住むことが初めから考慮されていない、空虚な芸術品としての都市。
恐らく、この街は通りを行き交う人々の活気も滅びの悲しみも知ることなく、ずっとこの地下で時間が止まったままなのだ。やがて、天井のドームが
そう思うと、なんだか僕はやるせない思いになった。今までどこか興奮していたのが落ち着いてくる。この街は、
「……マルグレット卿、一旦戻りませんか。」
「ええ、そうしましょうショルツ卿。」
マルグレット卿も、これ以上得るものはないと気がついたらしい。静かに
パトリシア殿下は、いまだ
「パトリシア殿下も、それでよろしいですか。」
僕が声をかけると、パトリシア殿下が振り返る。その表情はすぐにでも消えてしまいそうなはかなげな表情で、僕はすこしぎょっとしてしまった。
「……ショルツ卿。なぜだろうか、私を呼ぶ声が聞こえる気がするのだ。」
「殿下?」
パトリシア殿下が熱に
「早く、早くと。一人きりは、寂しいと。物悲しげな声が、聞こえてくる気がするのだ。」
僕はその様子がどうにも
「殿下、お気を確かに! 坑道へと戻りましょう、いいですね!」
パトリシア殿下の表情に
「…すまない、ショルツ。どこか、疲れて正気でなかったようだ。もとはといえば私が
「別に構いませんとも。過去は過去、過ぎたことを嘆いても意味がありません。さあ、坑道まで戻りましょう。」
僕たちは言葉少なに来た道を引き返した。物一つ落ちていない通りには三人以外の人影はない。特段何も起こらず、僕たちは無事に広間へと戻ることができた。
「この広間で一晩過ごした後、早朝の闇に
マルグレット卿とこれからの話をしながら、広間を
まさか。僕は嫌な冷や汗が止まらない。そんな、まさか。
僕たちが今日通ってきたばかりの坑道が、
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