第2話
今日は騎士団長がこのベルゴグラード城に着任なされる日だ。いつもは暗い雰囲気が
新しい騎士団長が王族だということで、今夜の就任祝いの宴は
騎士たちもご
そんな
僕は
他の騎士団ならば馬の世話なんていう雑用は
僕もご
まったく我ながらとんでもない騎士団に入ってしまったものだ。僕が馬の手入れをしながら文句を心の中で言っていると、
副団長と、マルグレット卿だ。
マルグレット卿が柔らかな微笑を浮かべて僕に近づいてくる。長い赤髪が
マルグレット卿はこの北方騎士団にあって数少ない良識人のうちの一人だ。
「これはショルツ卿、今回はよろしく頼みます。実は私も護衛役に加わることになりまして。」
感じのいい笑顔で僕に手を差し出してくる。僕はその豆だらけの手をしっかりと握った。
「マルグレット卿がいらっしゃるなら心強い。千の軍勢を味方につけたようなものですね。」
マルグレット卿ははにかんで顔を赤らめた。マルグレット卿は正面から称賛されるのに慣れていないのだ。
「パトリシア殿下の護衛として男だけでは不便だろうからな、マルグレット卿にもお願いすることにした。」
副団長が礼服の袖を整えながら付け加えた。
城門を副団長を先頭にして出る。城外の平原では騎士見習いたちが昨晩襲いかかってきた魔獣の死体を始末していた。
毛皮はこの騎士団の貴重な収入源の一つであるし、矢は回収すればまた使うことが出来る。こうした小さな工夫が北方騎士団の足元を支えているのだ。
いくつかの村々を過ぎ、騎士団の領地の境となる山地の
はるか昔、まだベルゴグラード城の一帯が森の一部だったころに魔獣から王国を守っていた
副団長が関所の門番と話をしている間、僕とマルグレット卿は手持ち
話題はもちろん今晩の
「騎士が二、三人森に狩りをしに出ましたから、今日は立派なジビエ料理が食べられるでしょうね。
ずっと前にショルツ卿が獲られた鹿は実に美味でした、また食べたいものです。」
マルグレット卿が顔をくしゃりととろけさせながらささやくように呟く。確かに
「まったく、
北方騎士団の食卓に上がるのはいつだってそうした肉や魚と固いパンか薄い
北の厳しい食糧事情ではそれも仕方がないことで、農民と比べれば恵まれたほうなのだ。だが、やはり食欲というものは
「ショルツ卿、あの一行は……?」
最初にパトリシア殿下一行に気がついたのは、マルグレット卿だった。マルグレット卿が指さす方向に僕も目を凝らすと、
先頭を歩く
マルグレット卿が早くに一行を見つけられたおかげで、パトリシア殿下の騎乗する馬が峠の
「北方騎士団が副団長、シナトラ・ド・モンタギュー、第六十四代北方騎士団団長パトリシア殿下をお迎えに上がりました。
こちらの者は殿下の護衛として騎士団から
副団長が下を向いたまま
しばらくすると、ガチャガチャと
「北方騎士団が団長、パトリシア・ド・トゥルモンド、副団長シナトラ卿の
ただ、私に護衛は不要だ。私の騎士たちで十分に私の安全は確保されている。」
しかし、護衛がいらないとは困った話だ。はいそうですかといって引き下がってもし殿下に何かあったら大問題であるし、かといって殿下の言いつけを無視して護衛をつければ不敬だと断罪されてもおかしくない。
「かしこまりました、殿下。それではベルゴグラード城まで私がご案内いたしましょう。城では宴の用意をしておりますゆえ……。」
副団長は一旦は引き下がることにしたようだ。副団長が目配せをし、さっと馬にまたがる。
僕とマルグレット卿もまた馬に乗り、殿下がひきつれる一行はのろのろと城への道を進んでいった。
パトリシア殿下の騎士たちは立派な
北方騎士団の騎士たちのみずほらしい姿とは大違いだ。
一行の後方に付き従う僕とマルグレット卿には、どこか
自分にぶつけられる
僕は昔から悪意や敵意には
「不穏な気配を感じました、様子を見てきます。機会を
脇に並んで馬を
「おい、そこの北方騎士団の者! いったいどこに行くつもりだ!」
パトリシア殿下の騎士から声がかけられる。
手柄を立てる機会だと調子に乗って足でも引っ張られたらシャレにならない。
「いえ、遠くに
できるだけバカっぽい
「はははっ! いかにも田舎騎士の気にしそうなことだな!」
自身の背後で笑いが巻き起こるのを感じながら、僕はため息をついた。
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