第3話
遠くで
近くの開拓村の人々が
草原の中にポツリと取り残された一本の木に僕は馬をゆわえつけ、森へと歩を進めた。
うっそうとした森は一切の光を飲み込んで黒々と
次の瞬間、森の暗がりから無数の狼が襲いかかってきた。
小さな
恐ろしく
長く、細く、鋭い
少しでも乱暴に扱えばポキリと折れてしまう
この剣に刺し
もう、目と鼻の先まで狼は僕に近づいていた。
瞬間、目にも止まらない、光すら置き去りにする突きが放たれる。
剣の切っ先は見事に眼球を
僕はすぐさま死体から剣を引き抜くと死体を
空中で体をひねり、次の
一撃、二撃、三撃と手がぶれるほどの速度で刺突する。三匹の狼が骨の間から心臓を突かれて絶命した。
三匹の死体が折り重なって倒れこんだその上に僕はふわりと降り立つ。
明らかに
「どうしたんだい? 僕はか弱い人間だよ、襲いかかってこないのかい?」
僕が挑発するようにおどけた
前、後ろ、右、左。ありとあらゆる方向から駆け出してきた狼たちの額に剣を突き立てる。
やっぱり僕には警護なんてものは性に合わなさそうだ。いつ来るかもわからない敵を待ち構えるよりも、待ち構えている敵に自分から突撃するほうが心が安らぐ。
それに何よりも日頃の
やがて、狼の群れはその数を大幅に減らしていた。僕の周りには数十体の狼の死体が転がっていて、残っているのはわずか三匹程度に過ぎない。
そのうちの一匹に僕は近づいていく。先ほど足の
近づく僕の姿に
近くにいた僕の脳が揺さぶられるほどの大声量だ。思わず喉元を突いて黙らせる。
が、どうやらそれは手遅れだったようだ。残った狼たちが森に駆けこんでいく。さらには森の
どうやらこの狼は群れに撤退の指示を出したらしい。しかし、森に伏兵を残していたとは随分と賢い狼だ。
僕は追撃をしようとして、諦めた。確かに僕の足で今から走れば狼たちに追いつくことは可能かもしれないが、時間がかかりすぎる。
夜になってしまえば城の門も固く閉ざされ、堀にかけられた
流石に一晩を危険な魔獣のうじゃうじゃしている平原で過ごすつもりはなかった。
それに、目標は達成した。あの調子なら狼たちもパトリシア殿下の一行を襲うことはできないだろう。
僕はゆわえつけておいた馬の元まで戻り、騎乗した。恐らくとっくにパトリシア殿下はボルゴグラード城にたどり着いているだろう。
既に辺りは夕暮れがかっている。はやく戻らなければ。
結局ボルゴグラード城に着いたのは門が閉まるギリギリの時間だった。門番に礼を言って馬を
すっかり汚れてしまった礼服を着替え、城の大広間に向かうと既に祝宴は始まっていた。
腕に覚えのある騎士が
すぐさま自身の席に着きたい欲求を押さえながらそっと
完全に酔っぱらって顔を赤くしているパトリシア殿下の騎士たちに目を付けられないようにしながら、副団長の肩を叩いた。
副団長は振り向くことなく机の下で指をくいっと曲げ、僕に報告を
「狼の群れ、およそ四十体ほどを
僕は副団長の耳元で、
「ご苦労だった、席に着くとよい。
副団長の短い指示に従い、僕は喜び
流石にあれほどの数の狼を
席に着いた途端、脇から手を肩に回される。僕が横を向くと、顔を完全に真っ赤にしたマルグレット卿が酒臭い息を吐いていた。
うげっ、僕は早くも祝宴に出たことを後悔し始めた。マルグレット卿は普段は理想の騎士なのだが、酔っぱらうと手のつけようがない暴れん坊と化すのだ。
そのたびに一番親しい僕に
兎に角、料理は食べられるうちに食べておくに限る。僕は
僕がその新鮮な肉を味わっているとき、脇からずいっとなみなみに度数の高い貴重なワインが満たされた杯が差し出された。
「……マルグレット卿、僕が度の高い酒をあんまり好まないのはご存じでしょう?」
僕はその杯を差し出すマルグレット卿の手を
「なぁ~にをお
ゾッとした僕は慌ててその杯を受け取る。深みのある赤いワインが目の前で波打っていた。
「さぁ、ショルツ卿! いっふぃ、いっふぃに飲み干しましょう!」
僕はすっとマルグレット卿に背を向ける。そして隣に座っていた騎士にぐいっと杯を押し付けた。
「ほら、僕は飲みましたよ! 見てください!」
「本当れふかぁ~?」
疑うような視線を僕に向けるマルグレット卿を無視して僕は副団長の様子を伺った。
副団長は机の上の料理には一切手をつけず、ただ周囲の席に座っている殿下の騎士の話に相槌を打っていた。マルグレット卿の失言を聞き
僕は胸を
ハッと目が
もしかしなくとも、あの人がパトリシア殿下ご本人なのだろうか。昼間は
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