辺境騎士ショルツは今日もため息をついている
雨雲ばいう
第1章 地中の怪物
第1話
北方騎士団の朝は早い。
まだ太陽も
ようやく一息つけるようになるのは太陽が
だが、魔獣たちが攻めてこないからといって騎士たちが休めるわけではない。騎士たちは森を開墾し、領地の村落を見回り、
そうして、
森の
このように、北方騎士団の毎日は死の危険と隣りあわせ、神経がすり切れてしまいそうな
しかし、このベルゴグラード城を拠点とする北方騎士団なしには王国の北の国境を守ることはできない。北方騎士団こそが王国の
北方騎士団、万歳! 北方騎士団の騎士たちは、王国中の
かつて北方騎士団に入団したばかりのころの僕はそんな幻想を抱いていた。
僕も北方騎士団に入って手ごろな手柄の一つや二つ立てれば
もしかしたら王国中の美女からモテるかもしれない。そんな妄想をした僕は鼻の下をのばして北方騎士団へと入団した。
今の僕がその場にいればかつての僕をぶん殴って絶対に止めておけと説得しただろう。
北方騎士団に入団した僕を待っていたのは王都の貴族や騎士からの
気がついた時にはもう遅く、僕は毎日死人が出るような激しい戦いに投入される使い捨ての駒の仲間入りというわけだ。僕の目が周りの騎士たちと同じように死んだ魚の目になるのに、一週間もかからなかった。
新兵の
固い
机の上の
しかし、その机の脇に立てかけられた
胸に手を当てて礼をとる。
「北方騎士団が
僕の名乗りを聞いた副団長は羽ペンをインク
「北方騎士団が副団長、シナトラ・ド・モンタギュー、我が要請に応じられたショルツ卿の
副団長、シナトラ卿はごそごそと羊皮紙の山を
僕はそれを手で捕まえて目を通す。
「この
………辞令ですか、どうやら後任の騎士団長が選ばれたようですね。」
この北方騎士団は三百年ほど前に“征服王”グラシニアス三世が北方支配のため結成した騎士団であり、その団長の任命権は代々の王家が
もっとも最近は失脚した貴族の左遷先としてしか使われず、騎士団の実権は僕の目の前の副団長が握っているのだけれども。
「この前の団長は一か月持ちませんでしたもんね。ましな貴族が飛ばされてくるのを願いますよ。」
前の第六十三代騎士団長は高齢だったこともあり、このベルゴグラード城の
いくらお飾りの団長だといえども、そうコロコロと変わってもらっては僕たち騎士も困る。
そんな風に
「その後任がとんでもなく
後任の第六十四代騎士団長はパトリシア・トゥルモンド殿下だ。現国王アグラシウス七世のご息女であらせられるれっきとした王族、それも王女よ。」
「…はい?」
僕は自分の耳を疑った。
王族が騎士団の団長を務める? しかもよりにもよって王家お抱えの騎士団の中でもとびっきり危険で
僕はどうしても悪い冗談としか思えなかった。
副団長は
「
確実に胃を痛めているであろう副団長に僕は同情した。
副団長は宮廷貴族の出身で代々
僕だったら確実に心を病んでしまって魔獣の群れにでも突撃しただろう。
「とにかく、何があろうとパトリシア殿下が傷ついたり気を害されるようなことがあってはならん。殿下の
何を隠そう、
警護、ときたか。僕は誰かを背後で守りつつ戦うのは苦手で、
ただ、副団長から命を下されればそれに従うのが騎士の務め、
「北方騎士団が剣、ショルツ・ド・バイヨン、その使命
再び胸に手を当てて礼をとる。
「北方騎士団が副団長、シナトラ・ド・モンタギュー、
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