エピローグ

エピローグ 不思議な夏休み①


 父が帰ってきた。


 その日はひまりとかげやが家に来なかったため、朝から黙々と刺繍を進めていた。おかげで、あともう少しのところまで来ている。

 そんな中、夕方近くになって、日本に着いたと祖父に連絡が入った。あまり遅くならないうちに、こちらに着くという。


 志保はそわそわしながら父の帰りを待った。

 今日は碧がお休みのため、夕飯をなにか作ろうかと祖父に相談したところ、出前でもとろうということになり、やることもなくなった。

 そうなると、気もそぞろな中刺繍をするしかない。


 けどやはり、刺繍を始めるとすぐにその細かい作業に没頭する。

 祖父が声をかけるまで、志保はずっと作業をしていた。




「翔吾(しょうご)が帰ってきたぞ」

 どうやら父が帰ってきたことを知らせてくれたらしい。

 志保は作業の手を止めて、危なくないよう針を仕舞い、玄関へと向かう。


「お父さん!」

 父の姿が見え、思わず大きな声で呼んでしまった。

「志保か。なんだ、この1か月でずいぶん日に焼けたんじゃないか」

「お父さんもいつもより黒いよ」

 日に焼けて黒くなっただけだろうに、1か月振りに会う父が、まるで知らない人のように見える。

「あ。お父さん、お帰りなさい」

 志保は改めて、ちゃんと父に向かって挨拶をした。

「あぁ、ただいま」

 父の手が頭をゆっくり撫で、その感覚が久しぶりで、志保は少し恥ずかしくなった。


 その少しあとに頼んでいた出前が届き、そのまま3人で夕ご飯を食べた。

 出前にお寿司を頼んでいたので、父は久しぶりの日本食だと美味しそうに食べていた。

 ご飯の後、父はすぐにお風呂に行き、ものの数分で上がってきた。そのまま志保が借りてる客間に布団を敷き、すぐに寝息をたて始める。


「……あいつ、食ってすぐ寝やがった。話くらい聞かせてくれてもいいのにな」

 渋面を見せる祖父に、志保は仕方ないよと言う。

「お父さん、外の仕事終わって帰ってきた時、だいたいいつもこんな感じだよ」

 今回は1ヶ月も海外に行っていたのだから、疲労も溜まっているのだろう。おそらく明日もお昼頃まで寝ているに違いない。


「おかえり、お父さん」

 何もかけずに横になる父に、志保はお腹周りにだけタオルケットを掛けて、刺繍道具を手に祖父のいる居間へと戻った。

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