四章
彩りとじこめる夏の終わり①
壮絶な体験をした翌日、久しぶりに祖父の携帯に父から連絡があった。
『こっちの仕事は順調だ。早ければ今週末か週明けには帰れるかもしれない』
それは志保にとっては嬉しいことだった。
しかし、この街にいるのも残りわずか、ひまりたちと遊べる日も少なくなってきたということでもある。
嬉しさと寂しさ。
もう少ししたらこの街を去るという事実に、父の帰宅を素直に喜べない自分がいた。
『そうだ、志保。自由研究、何をやるか決めたか?』
「……まだ、決まってない」
『そっか。ほかの宿題は終わったのか?』
「うん、もうほとんど終わったよ」
『じゃあ、父さん帰るまでに自由研究の内容、決めておいてくれよ。志保のやりたいこと、手伝うから』
「……うん、分かった」
そこで父との会話は終わり、祖父が二言三言話して電話は切れた。
志保はそのままぼうっと居間の机に突っ伏した。
「どうした、志保。今日は出かけないのか」
祖父はそう言うが、今日は正直家から出たくない。昨夜の出来事が、まだ抜けていないからだ。それに今日はお昼近くになってもひまりたちがやって来ない。おそらく彼女たちも、今日は家から出ないのではないだろうか。
やることは、ある。
宿題はもう終わったようなものだからいいとして、自由研究がまだ手付かずなのだ。
毎年父と一緒に作成していた自由研究。今年で最後になる。
夏休みが始まったあたりは、今までで1番いいものを作りたいと思っていた。
だけど今は、その気持ちは変わらないけれど、何を作ればいいのか思い浮かばない。
──レターボックスや箱庭、模型作りもやったしなぁ……。
何か思いつかないかと考えてみたが、いっこうにいい案が浮かばない。
「ただいまー」と玄関から碧の声が聞こえて、志保ははっと起き上がった。
「あら、志保ちゃん、今日は遊びに行かないの?」
志保の姿を見た碧は、祖父と同じことを聞く。
碧は志保の返事を聞く前に、買い物でもしてきたのだろう、荷物を片付けていた。
「……碧さん、何か手伝いますか?」
このままじっとしていても仕方ないと思い、碧に尋ねる。
「大丈夫よ。志保ちゃんは気にしなくていいわ」
相変わらず、碧は志保に手伝いをさせてくれない。
──……何かなぁ。
上手く言葉にできない感情に、少しモヤモヤとしてしまう。
自由研究が進まないことも相まって、今日はやけにもどかしさを感じる。
「…………碧さん、少し散歩してきます」
「あら、そう? 遅くならないように気をつけてね」
志保は碧に断って、外に出た。
特にあてはないが、外の空気を吸って少しでも気分を落ち着けようと思った。
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