6話:白の支配者

「――誰だ?」


 邪魔されたことの不快感が声に現れる。

 純白の法衣に身を包む男は笑みを浮かべながら自己紹介をする。


「これは失礼いたしました。私はルブシオン聖法国の【六聖典】が一人、ラヴァン・オルコスと申します」


 ラヴァンはフェイドに対して一礼する。


「つまり、俺の敵ということでいいんだな?」

「そうなりますね。あなたが覚醒者で『黒の支配者』と分かれば味方に引き入れたかったのですが残念です」


 ラヴァンの発言の中に、聞き捨てならない言葉が聞こえた。

それはフェイドのもつ祝福ギフトに関して。フェイドは敵である連合軍側に、自身が覚醒者であることは知れ渡っているが、祝福ギフトに関してまで知られているとは思わなかったのだ。


「どうして俺の持つ祝福ギフトが『黒の支配者』だと分かったか、教えてくれてもいいか?」


 ラヴァンは「いいでしょう」と快く答えた。


「分かったのは簡単ですよ。あなたの持つその闇の軍勢と、私もあなたと同じ覚醒者で『支配者』の祝福ギフト持ちですから」


 同じ『支配者』の祝福ギフト持ちだと知ったフェイドは驚いた表情を浮かべた。


「同じだと?」

「ええ。私は『白の支配者』です」


 支配者の祝福ギフトは七つ存在すると、厄災の龍が話していた。赤、青、茶、緑、黄、白、黒とあり、その中でも黒だけが別格だと。


「どうですか? ルブシオン聖法国の【六聖典】には、私を含めて三人の支配者がいます。そしてミスレア王国に一人と、ネイティス西王国に一人。計五人の支配者が、連合軍に参加しております。この意味を理解できますか?」


 ラヴァンはこれだけの支配者を敵に回せるのかと言っているのだ。

 だが、フェイドは不敵な笑みを浮かべた。


「俺の復讐を邪魔するな。――潰すぞ」


 凄まじく濃密な殺気がラヴァンを襲う。

 思わず後退り、「うっ」とフェイドの殺気を浴びて顔色を悪くさせたのと同時に思う。

 黒の支配者がこれほどだったとは――と。

 白の支配者であるラヴァンと黒の支配者であるフェイドが闘えば結果は明白。戦力が多く、尚且つ戦闘力があるフェイドが勝利するだろう。

 それは他の支配者と力を合わせても同じ結果と言えた。


「いやはや、恐ろしいですね。私は撤退させていただきましょう。レイの遺体も、あなたに活用されては困りますからそちらも回収させていただきます」

「逃がすと思っているのか?」


 フェイドが右手を挙げると、周囲を埋め尽くさんばかりの漆黒の槍が展開されたことで、ラヴァンの逃げ場がなくなる。それでもラヴァンの態度は崩れない。それは己の力を信じているから。


「はい。逃げさせていただきます」


 瞬間、虚空からグレイを捉えていたのと同じ漆黒の鎖がラヴァンへと伸びたが、あと少しで拘束できるというところで障壁によって弾かれて鎖は消滅した。


「へぇ……」


 フェイドの口からそんな声が漏れ出た。

 そして、フェイドが掲げていた右手を振り下ろした。振り下ろされる動作に合わせて、展開されていた漆黒の槍がラヴァンへと襲い掛かった。


「これはまた物騒ですね。――白亜の天蓋」


 魔法名が紡がれると同時、ラヴァンとグレイを囲むように純白のヴェールが覆った。そこに漆黒の槍が次々と直撃するが、ヴェールに当たるなり消滅していく。

 そして虚空から伸びた白い棘がグレイを繋ぐ鎖を断ち切った。


「グレイ殿。レイ殿は残念ですが、ここは戻りましょう」

「だが……」

「連合軍はこの通りヤツによって全滅です。私もこれを相手に戦うのは厳しいです」

「わかった」


 悔しそうに拳を握りしめるグレイは、キッとフェイドを睨みつけた。


「フェイド。この屈辱は決して忘れない。必ず返しに来る」

「では、黒の支配者。またどこかの戦場でお会いしましょう」

「待て!」


 一本の漆黒で禍々しい槍が放たれるが、直撃する寸前でヴェントとグレイ、レイの遺体は消えた。


「くそがっ!」


 逃げられたことでフェイドは悪態を吐いたのだった。

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