7話:ミスレア王国王城にて

 ヴェントは疲れきって精神がボロボロとなったグレイを連れてミスレア王国へと帰還した。

元々、ルブシオン聖法国から派遣された身であり、現在はミスレア王国に滞在していた。

ヴェントが王城に着くと、すぐさま兵達が駆け寄ってきた。


「ヴェント様! 中央戦線に向かったのでは?」

「向かったが、グレイがこの通りだ。至急、陛下にお目通り願いたい」

「た、直ちに! それで、レイ様は……?」

「この通り、戦いで命を落としました。丁重に扱ってください」

「はっ! 空いている者、早くこちらに!」


 兵士はレイの遺体を預かり運んで行った。その後、ヴェントとグレイは客間に通されるもすぐに謁見となった。

 謁見の間に向かい、ゆっくりと扉が開かれた。奥の玉座にはミスレア王国の国王であるケイクスが座っており、後ろには近衛騎士が佇んで王を守っている。

 ヴェントとグレイは近くまで来ると跪いて首を垂れた。


「面を上げよ」


 顔を上げ、ケイクスを見る。ケイクスはグレイに言葉をかける。


「よくぞ無事に戻ってきてくれた。レイ殿のことは聞き及んでいる」


 ゆっくりと顔を上げる。


「陛下、誠に申し訳ございません。私がもっと早く駆けつけていれば、このような事態に発展しておりません」

「ヴェント殿に責任はない。後から向かってほしいと言ったのはこの私だ。そなたが無事で何よりだ」


 ケイクスの視線がグレイへと向く。

 グレイの体調は優れず、ケイクスも見ただけでそのことに気付いていた。


「グレイ殿。まずは無事に戻ってきてくれたこと嬉しく思う」

「はっ。ですが、俺のせいでレイとイレーナが……」


 仲間の死はグレイにとっても悲しかった。

 仲はそれほど良くなかったが、それでも嫌いではなかった。それは共に戦った仲間故に。

 ケイクスのみならず、その場がザワッとする。


「何⁉ イレーナ殿もか⁉」

「はい。背後から奇襲はすでにバレておりました。イレーナの軍は誰一人、生きておりません。文字通りの全滅です」

「なんと……しかも、バレているとなれば、連合軍に内通者が存在する可能性があるのか」


 グレイはケイクスの言葉を否定した。連合軍に内通者など存在しない。


「では、どうしてバレたというのだ?」

「それは……」


 グレイはフェイドの存在を告げた。

 覚醒し、大きく力を付けたこと。誰にも止めることのできない化け物へと成長していることを。


「なんと、あの人類の裏切り者が……」

「陛下、私からも」

「うむ」


 そこにヴェントが挙手したのを見て続きを促す。


「フェイドの祝福ギフトは『黒の支配者』です」

「なっ、支配者の祝福ギフトだと⁉」

「はい。あの力は、死んだ者を闇の軍勢として取り入れますが、もっとも厄介なのが取り入れた者の力を一割程度ですが奪うのです」


 ヴェントは言葉を続ける。


「『黒の支配者』は、支配者祝福ギフトの中でもっとも強力で、世界すら支配できると言われます」

「止めることは、殺すことはできないのか?」


 何としてもフェイドを殺さなければ、大きな被害が出ることになる。

 ケイクスはフェイドの存在による連合軍の敗北を危惧していた。

「可能です。ですが、我々も今以上に力を付けなければなりません。フェイドと交えて分かりました。奴は強いです。私一人、いや。数人の支配者が集まっても倒すのは困難でしょう。それほどまでに、力を付けております。これ以上、野放しにするのは危険です」

「ヴェント殿には何か策はあるのか?」


 ケイクスとグレイの期待する視線が向けられるが、そんな二人を見てヴェントは笑みを浮かべた。


「策はあります。こちらには五名の支配者の祝福ギフト持ちが存在します。魔王軍ではまだ、フェイドのみしか確認されていません」

「その五人でフェイドを倒すと?」

「はい。可能なら、ですが。敵にもう一人の支配者の祝福ギフト持ちがいた場合は、どうなるかさえも分かりません。これは賭けのようなものです。それに、グレイ殿にも協力をしてもらいます」


 ケイクスは顎に手を添えて思考する。

 その時間は数秒であったが、その短い時間で思考を巡らせ答えを出した。


「良かろう。フェイドの情報はすべての者に共有するように」

「はっ! ありがとうございます」

「グレイ殿、次は期待している」

「お任せください! この屈辱、必ずや晴らして見せましょう!」

「うむ。期待している」


 グレイの瞳に怪しい光が宿り、ヴェントはそれを見てニヤリと笑みを浮かべるのだった。

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