5話:邪魔する者
グレイの精神はボロボロになっており、そこに勇者としての面影はない。
「や、やめてくれ……! もう十分だろう⁉」
フェイドに懇願するも聞く耳を持たず、拷問ともいえる所業を続ける。
「や、やめ――がぁぁぁぁあ⁉」
周囲にグレイの苦しむ悲痛な叫びが響き渡る。
誰も助けようとはしない。なぜなら、闇の軍勢によってすでに連合軍は崩壊しており、逃走しているからだ。
逃走している兵に、空からドラゴンのブレスが襲い焼け死んだ。
誰一人逃げることは許さず、全てが闇の軍勢によって殺されていく。それを離れた場所から見つめる魔王軍の面々。
「もう、こんなのは戦いじゃない」
誰かが呟いた。
見えるのは闇の軍勢によって蹂躙される連合軍の姿。あまりに一方的で、戦いと呼べるものではなくなっていた。
「フェイド、これは戦いなんかじゃない!」
グレイにも魔王軍の声は届いており、これをチャンスと思いそう告げたのだがフェイドは興味などなかった。
「それで? それを俺に言ってこの状況が変えられると思っているのか? 俺は最初に言ったはずだ。蹂躙すると」
「なっ⁉ お前はそれでも人間か!」
「人間さ。俺をこんな風に変えたのもお前達人間の仕業だ」
その言葉にグレイは何も言い返せないでいた。
当然だろう。フェイドをここまで豹変させたのは、紛れもないグレイ自身なのだから。
「さて。これを耐えれば許されると思っているのだろうが、俺はお前を許した覚えはない」
フェイドの発言を聞いてグレイの顔が青くなっていく。この地獄から抜け出せないのだと理解して。
グレイにはこれからイレーナが受けた以上の復讐が待っている。
「始めようか」
「く、来る――ひぎゃぁぁぁあ!」
闇の腕がグレイに伸びて手足を折った。それだけでは終わらない。続けて手足の爪を剥がし、皮膚を剥ぎ死なない程度の炎で焼いて痛みを増幅させる。
この程度では終わらない。
フェイドは漆黒の剣を作り出して手足の先から心臓に向かってゆっくりと突き刺していく。血が流れ、今にも死にそうなグレイを回復させてもう一度行う。
何十回と行っていると声が掛けられ、近くに何かが投げ捨てられた。
「良い趣味とは言えないな」
投げられた者は、ボロボロの姿で死んでいるレイの姿だった。
「レイッ⁉」
グレイがレイの死体を見て名前を呼び、驚いた顔をしていた。
グレイを無視してフェイドが振り向くと、ハウザーとアゼッタが歩いてきていた。ボロボロとはまではいかないが、それなりに傷を負っていた。
「これは俺の復讐だ。お前達には関係ない」
向けられた視線にアゼッタはビクッと肩を震わせる。ハウザーもこれ以上は余計な摩擦を生みたくはなかったので引き下がることにした。
「殺すんだろ?」
「当たり前だ」
「なっ⁉ 助けてくれないのか! 俺は勇者だ!情報だって持っている!」
そんなグレイにハウザーは冷たい瞳を向けだけ。
ハウザーにとって、勇者は敵であり同胞の仇である。助ける意味など無い。
代わりにフェイドが答えた。
「お前は許しを請う者に何をした? 助けを乞う者を楽しそうに殺していたのを俺は知っている。そんなお前が許しを乞う権利などありはしない。あるのは、お前が殺した者達に謝りながら、苦しみ藻掻き死ぬことだけだ」
グレイの顔が真っ青になる。
自分が助かる道はどこにもないのだと理解して。
「なら殺す前に連合軍の情報を手に入れてほしい」
それだけ言うとハウザーは去って行き、アゼッタは何ともいえない表情を浮かべていた。
だが何も言わない。
復讐を目的とするフェイドには何を言っても無意味だから。
だからこれ以上人が変わらないことと、その力をこちらに向けないのを祈るばかりだった。
フェイドはグレイへと歩み寄り髪を掴み上げる。
「情報を吐けば楽に殺してやる」
グレイは笑みを浮かべる。
「俺が素直に喋ると思うか?」
「そうは思わないな。だから、お前が喋りたくなるまで痛めつけることにした。その発言、後悔するなよ」
「はっ、誰が喋るものか」
「そうか」
そして戦場にグレイの悲痛な叫び声が響き渡った。
そこから何度も何度も繰り返しているとグレイが怯え始めた。
「も、もういいだろ! 話す! 知っていることはすべて話すからこれ以上は――」
「ダメだ」
言葉を遮って告げた。
「俺は後悔するなと言った。素直に喋らなかったお前が悪いだけだ」
しばらくしてフェイドは再び問う。
「もう殺してくれ……これ以上は苦しみたくない」
「……楽に殺してやるから、知っている情報を全て吐け。嘘を吐いたらまた繰り返すことになる」
「わ、わかった!」
グレイはスラスラと知っている連合軍の情報を喋りはじめる。
そして勇者の所在を今後の作戦を聞き、殺そうと漆黒の剣を薙いで――キンッと弾かれ防がれた。
「これ以上はさせませんよ。まだ、この男には利用価値があるのですから」
そこには純白の法衣に身を包んだ三十代前半の男が立っていた。
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