4話:憎き勇者に永遠の苦痛を

「世界に勇者は必要ない、だと?」

「お前のような下種な勇者は世界にとっても、人類にとっても邪魔な存在だ」

「俺達勇者は神によって選ばれた存在。つまりは、世界に選ばれた存在なんだよ!」


 誇るように言い張るグレイ。

 勇者とはなんだ。正義とは一体なんなのか?


「不幸だと嘆く者に、助けを求める者に助けの手を差し伸べるのが勇者であり、真の正義ではないのか?」

「俺が勇者だから、やること全てが正しく正義なのさ」

「下らない幼稚な考えだ」

「幼稚だと? 勇者や正義に理想を抱いてるお前の方が幼稚じゃないのか!」

「お前のようなクズとは話していても埒が明かないな」


 フェイドが剣を構えるとグレイも剣を構える。

 両者は睨み合い――動いた。グレイが斬撃を放ち、手のひらを此方に向けた。


「――炎の牢獄フレア・プリズン!」


 斬撃を弾いた直後、フェイドの足元に魔法陣が展開されて炎の牢獄に閉じ込められた。

 逃げ場を失ったフェイド。囲む炎の牢獄は徐々に狭くなっていく。残り一分ほどで完全に収縮してフェイドは焼き割かれることだろう。

 だがフェイドは余裕な態度を崩さなかった。


「この程度で俺を倒せるとでも?」

「思っちゃいないさ! ――炎龍!」


 グレイの背後に、以前の日ではないほどに巨大な炎のドラゴンが現れた。


「全てを焼き尽くせ!」


 その命令に従い、炎龍は顎を開き超高温のブレスを放った。

 放たれたブレスは地面を融解しながらフェイドへと迫り――漆黒の魔力が螺旋を描き天を衝いた。

 炎の牢獄は破壊されており、地面を這いずる黒い影から一匹の龍が現れてブレスを喰らった。

 予想外の光景にグレイの口から「は?」という間の抜けた声が漏れ出た。

 漆黒の龍は炎龍へと迫り噛みつき、次々と喰らっていく。

 ものの数秒で跡形もなく喰らわれた炎龍は消滅し、フェイドの周囲をグルグルと回り、グレイを睨みける。


「な、なんだ、それは……何が起きた!」

「これは俺の闇魔法の中でも最上位に位置する魔法の一つ、あらゆるものを喰らう魔法――『すべてを喰らいし暴龍バハムート』だ」

「そんな魔法、出鱈目すぎる……」


 グレイにはまだまだ魔力は残されていたが、それでも本当にこの男に勝てるかと疑念が過る。だがすぐにその考えを払拭する。


「テメェを殺すまで、俺は諦めない」


 グレイは様々な魔法を放つが、その全てがバハムートによって喰らわれていき、

一切の攻撃を通さなかった。

 それでも尚、戦う姿はまさしく勇者。

 だが……


「俺はお前の苦痛と絶望に染まった顔が見たいんだ」


 虚空から漆黒の棘がグレイの左腕を貫き鮮血が舞った。


「――がぁっ⁉ だが!」


 聖剣を握る右手に力が籠る。

フェイドは迫るグレイを冷たい瞳で捉えていた。そして、あと数メートルで剣が届きそうになり――影から伸びた槍が右足を突き刺した。


「がぁぁぁっ⁉」


 痛みで無様に地面を転ぶグレイに、フェイドが歩み寄る。

 剣を振るえば届きそうな距離で立ち止まり――グレイが剣を薙いだが、漆黒の剣によって容易く防がれてしまい聖剣が手から離れ落ちた。

 フェイドはそれでも立ち上がろうとするグレイの右手を剣で突き刺し、地面と縫い付ける。

 悲痛な叫びが聞こえるも、さらに漆黒の剣を作り出して左手に突き刺した。両手は塞がり、右足は貫かれたことで残っているのは左足のみ。


「左足が残っているな」

「なっ、やめ――ぎゃぁぁぁぁあ!」


 作り出された漆黒の剣が左足の太腿を突き刺した。


「さて、お前には父さんと母さんを殺された恨みに、村みんなの仇を取らないとな」

「い、一体俺になにをするつもりだ」


 怯えた目でフェイドを見るグレイに口角が吊り上がる。


「生きてきたことを後悔するまで。死にたいと、殺してくれと懇願するまでお前にはこれから酷い目に遭うことになる。安心しろ、死にそうになったら回復して最初からやってやる」


 グレイに待っているのは“死”のみ。

 そしてある程度傷を治し、虚空から鎖が伸びでグレイを拘束する。


「さあ、楽しい復讐の時間をはじめようか」


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