9話:次なる復讐に向けて

 フェイドが連合軍の船団を殲滅して要塞に戻って来ると、カルトスが急いでやってきた。


「アゼッタ様、連合軍の方は?」

「フェイドが殲滅しました」

「殲滅、ですか……」


 殲滅と聞いて、カルトスは恐ろし気な視線をフェイドへと送った。

 フェイドはカルトスが見ていることに気付く。


「俺は復讐をしただけだ」

「勇者はどうなった?」


 カルトスの質問に答えたのはフェイドではなくアゼッタであった。


「勇者はフェイドが倒しましたよ」


 思い出したアゼッタの顔色は悪くなる。何があったのかを聞こうとして、開きかけた口を閉じた。


「分かりました。それと、中央の戦線が大分押されているとの報告がありました」

「なんですって⁉」

「勇者を二名確認しているとも」


 勇者という単語にフェイドが反応する。


「その勇者が誰か分かるか?」

「はい。【劫火】グレイ・ヘウレシスと【閃光】レイ・ミシェルとのことです」


 その瞬間、周囲に濃密な殺気が放たれた。

 殺気に当てられたアゼッタやカルトスは思わずフェイドの方を見た。

 周囲の者は、フェイドの濃密すぎる殺気に当てられて尻もちを着き、中には気絶する者まで現れる。


「フェイド、落ち着いてください!」

「ここでそんな殺気を出すな!」


 二人の声にフェイドはハッとして殺気を収めた。

 殺気が収まったことで二人は安堵するが、アゼッタは冷や汗を流していたが、カルトスは殺気に当てられて青い顔をしている。

 周囲を見渡したフェイドは謝罪する。


「すまない。感情的になりすぎた」

「い、いえ。これからは気を付けてください」

「善処する」


 フェイドは「それで」と続ける。


「今もまだ中央にいるんだな?」

「恐らく。フェイド殿が殲滅したということは、人間どもにはまだ伝わっていません」

「なるほど。叩くなら今がチャンスというわけか」

「はい。ですが……」


 カルトスの歯切れが悪く表情もすぐれない。


「どうした?」

「いえ。連合軍の戦力が多く、こちらはなんとか食い止めている状況とのことです」


 フェイド「そうか」とだけ伝えてアゼッタの方へと顔を向けた。


「行くぞ」

「え?」

「今から中央の戦線に向かう」

「なっ⁉ 今の物資量だと持ちませんよ!」

「なら俺だけで行くが、いいのか?」


 このままでは協力関係にあるフェイド一人の戦功が大きく、アゼッタは何もしていないことになる。

 主君であるエリシアになんて言われるか分かったものではない。

 そして先の戦闘を考えると物資もそこまでキツイ状況ではなく、むしろ余裕すらあった。それらを考えた結果、援軍に行くという選択は悪いことではなかった。


「お前らを運ぶのは次いでだ。空の移動なら陸で行くよりも格段に速い。中央までなら半日で到着する」

「分かりました。出発は?」

「早く勇者の相手をしたいところだが万全な状態でいきたい。だから明日の朝に出るとしよう。無駄にお前らを死なせるとエリシアが文句を言うだろうからな。エリシアから申し出た関係だが、悪くないと思っている。些細なことで言い争いたくはない」


 向こうから申し出た関係とはいえ無駄に戦力を減らしたくはなく、関係にも亀裂を入れたくはなかったのだ。

 フェイドの言葉にアゼッタは目を見開きすぐに頭を下げた。


「今までの非礼、申し訳ありませんでした」

「急にどうした?」

「手を組まれた聞き、最初は疑っておりました。ですが今回の勇者を倒したことや、我ら魔王軍の今後まで考えていたとは……。人間とはいえ、どこかで見下していた部分もあります」

「魔族と人間は敵対しているんだ。どこかで見下す部分はあっただろうさ」

「ありがとうございます」


 アゼッタは深く頭を下げた。

 事実、フェイドがいなければ厳しい戦いになっており、中央にも援軍としていくことも叶わなかった。

 故にアゼッタはフェイドに感謝していた。

 そんなアゼッタの感謝が伝わったのか、フェイドは背を向けて去って行った。


「お前もみんなも早く休めよ」

「はい。そうします」


 アゼッタはフェイドの姿を見送り、兵達に指示を出すのだった。

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