5話:復讐のはじまり
◇ ◇ ◇
フェイドが鳥型の魔物で周囲の偵察をしていると、海上の方に無数の点が確認できた。
さらに近づくと、それらの点は軍船であり、フェイドは鼻で笑った。
「フェイド、どうしたのですか?」
アゼッタの問いに、フェイドは立ち上がり口を開いた。
「奴らが来た」
「相手には勇者がいる可能性もあります。それに、監視するのが私の役目です」
フェイドは歩みを止めない。扉まで来ると立ち止まりアゼッタに告げる。
「好きにしろ。だが、勇者は俺が殺す」
一瞬だけ向けられたフェイドの目を見て思わず唾を飲み込んだ。
その目は「邪魔は許さない」と物語っていた。
部屋を去っていくフェイドの後を、アゼッタは急いで追いかける。
外に出たフェイドは足元から闇を広げ、闇の軍勢の位置であるドラゴン達を呼び出した。
アゼッタは次々と現れるドラゴン達を目にして思わず目を見開いてしまった。
一体一体の強さもそうなのだが、中で最も引いたのは黒銀色のドラゴンであった。
現れた瞬間の気配が尋常ではなかったから。
ドラゴンが頭を下げたのでフェイドが飛び乗った。
「行くなら早く乗れ」
少し考えるもアゼッタは頷いて飛び乗り部下に命令する。
「あなた達は後から来て、港の防衛を固めておいてください」
アゼッタの命令に部下の魔族達は「はっ!」と返事した。
ただ、疑問に思うのが、自分達は一緒に付いて行けないのかということだった。
それでもフェイドの圧に気圧され、何も言うことはできなかった。
そしてフェイドとアゼッタは要塞を後にして海上へと向かい、少しすると無数の点が見えてきた。
「フェイド。アレが連合軍ですね?」
「そうだ」
頷くフェイドを見て、アゼッタは再び船団を見つめる。
船団の数は百隻。一隻あたり二百人が限度と考え、少なくとも二万の軍勢ということになる。
そして、連合軍はドラゴンの大群を見て驚いており、撤退しようとする動きが見えたのでフェイドは命じた。
「先頭の右隣の船を沈めろ」
黒銀色のドラゴンからブレスが放たれ、一隻に直撃して海の藻屑となった。
その光景に海上が静まり返り、フェイドは先頭の船へと近づくと、偉そうな人物が前に出てきてドラゴンに乗っているフェイドを睨みつける。
「何者だ! まさか八魔将か!」
思わぬ発言にフェイドは可笑しそうに笑ってしまった。
「俺が八魔将? 勘違いは止めていただきたいね」
すると、男の隣に一人の美女が現れる。
「私は勇者の一人、イレーナ・メルシャス。【氷禍】とも呼ばれているわ」
勇者という言葉を聞いたフェイドからイレーナへと殺気が放たれる。
イレーナは冷や汗を流しつつも名前を尋ねた。
「名前を聞いても?」
フェイドは被っていたフードを外して彼女の質問に答えた。
「フェイドだ」
一瞬だが、彼女の表情の変化を読み取ったフェイドは、自分のことは知られていると判断し、それでも復讐するべき相手がやってきたということで口元が弧を描く。
「――さあ、勇者。俺の復讐に付き合ってもらおうか」
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