6話:勇者への復讐Ⅰ

 船団に乗っている魔法士がフェイドに両手を向け、次第に魔力が高まっていく。

 フェイドがゆっくりと片手を挙げると、周囲を飛んでいるドラゴンの腹部から口内の順に紅く染まり始めた。

 ブレスが放たれる前兆であり、それらを見た船団の者達から焦った声が聞こえ、顔を青くさせる者が多く現れた。

 この数のブレスを防ぐには、流石の魔法士でも不可能である。

 勇者であるイレーナも、放たれるだろうブレスを想像して険しい表情を浮かべている。


「フェイド。まさか人間を殺す気なの⁉」


 イレーナの問いにフェイドは呆れてしまう。

 フェイドにとっては今更な質問であった。


「言ったはずだ。俺は復讐するって。グレイから聞いていなかったか?」


 殺意を込めてイレーナを睨みつけると、小さく「ヒッ」と悲鳴を漏らした。

 それでも勇者である彼女は、グッとフェイドを睨み返した。


「やはりあなたは人類の裏切り者ね」

「先に俺を裏切ったのはそっちだ」

「それは人類が生きるためよ」


 何を言っても意味がないと判断したフェイドは上げた腕を振り下ろした。

 振り下ろされたことで一斉にブレスが放たれたのと同時イレーナは叫ぶように魔法士たちに命令を下した。


「急いで結界を展開しないさ! このままだと全滅よ!」


 放たれた無数のブレスだが、連合軍の船団を包み込むように展開された結界によって阻まれた。

 だがそれも一瞬で、次の瞬間には結界全体に一つの亀裂が生じた。亀裂は徐々に広がっていき、次の瞬間には結界を破壊してブレスが船団を直撃して爆発を引き起こした。

 今のドラゴン達が放ったブレスで船団の半分以上が海へと沈んでいった。

 イレーナが乗っていた軍船は、イレーナが結界を張ったことで何とか凌いでいた。

 それでも結界が破壊されて少なくない被害が出ていた。


「嘘でしょ……」


 これでは作戦を続行することはできない。

 そんな中、もう一匹のドラゴンの頭上に一人の少女が近づいてきた。


「私は魔王軍第六軍団長のアゼッタ」


 アゼッタが自己紹介した瞬間、イレーナがバッとフェイドを睨みつけた。


「まさか魔族の味方を⁉」


 フェイドは鼻で笑った。


「何が可笑しいの!」

「可笑しいも何も、俺は共通の敵がいるから手を組んだに過ぎない」

「そう……」


 イレーナはゆっくりと立ち上がり口元が弧を描く。


「いいわ。作戦は失敗だけど、ここで殺してあなたの首を陛下に持っていけば許されるだろうしきっと喜ばれるわ。だから――ここで死んでもらうわ」


 持っていた杖で地面を叩く。


「――水龍」


 すると、周囲の海面から海水が伸び、二匹の龍のような形を作った。

 イレーナが笑みを浮かべながら杖を横に振るった。すると、振るわれた杖に合わせて水龍の顎門が開かれてブレスを放った。

 フェイドは迫るブレスを見つめながら徐に手のひらを向けた。


「――闇の帳」


 防御の魔法が展開されるのとブレスが直撃するのは同時だった。


「その程度防御、すぐに破壊してみるわ!」


 イレーナはすぐに破壊できると考えていたが、一向に破壊できないフェイドの魔法に苛立ちが生じる。


「なんであんな魔法、すぐに破壊できないの! 水魔法の最上位ともいえる魔法なのよ!」


 破壊できない理由はフェイドによって答えられた。


「『闇の帳』は闇魔法の防御魔法の一つだ。その効果は、直撃する魔法威力を半減させる」

「なっ⁉ 何よその魔法!」


 ならばいくら攻撃したところで、破壊にも時間がかかるということになる。


(いくら攻撃しても、残りの魔力であの数のドラゴンを相手にしないとならないわ。今のうちに私だけでも逃げれば――)


 その時、イレーナはフェイドと目が合い、その口元がゆがんだのを見て声が聞こえた。


「――逃がすと思っているのか?」


 ブレスが止み防御が解けると、フェイドが右手を挙げておりドラゴン達がブレスを放つ態勢へと移っていた。


「先頭の船以外は焼き払え」


 無慈悲に告げられた言葉と共に、掲げられていた右手が振り下ろされるのと共にブレスが放たれた。

 放たれたブレスは次々と軍船に直撃して大破させて海へと沈めていく。

 最後に残ったのは、イレーナが乗る軍船のみとなってしまった。



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