10話:八魔将ハウザー

 現在、フェイドは魔王城の外にある広場でハウザーと向かい合っていた。

 大剣を構えるハウザーに対して、フェイドは何も構えてない。

 武器を構えないことを疑問に思ったのかハウザーが尋ねる。


「武器を持たなくていいのか?」

「確かに、それ・・とは素手ではやり合えないか」


 大剣を見て告げるフェイドにハウザーは「ほう」と声を漏らした。

 フェイドは、ハウザーの持つ大剣が『魔剣』の類であることを一目見て見抜いていた。

 ただの魔剣なら良いのだが、ハウザーの持つ大剣からさらに危ない香りがしたのだ。

 フェイドの足元から、一振りの漆黒の剣が現れ掴み取る。

 すべてが黒い剣を見て興味深そうにハウザー見やる。


「それは、魔法で作られた剣、なのか?」

「ああ。俺は闇魔法を使うが、ただの闇じゃないとだけ言っておこう」

「ほう、面白い。では始めるとしよう」


 互いに構えるが、この戦いに合図など無い。

 すでに始まっているのだから。

 ハウザーがジリッと右足が動いたかと思うと、一瞬でフェイドの一メートル手前まで迫っており、大剣が振り上げられていた。

 受け止めることも考えていたが、ハウザーの方が体格では優っていた。

 力比べをしたところで、闇の軍勢へと加えたことで基礎能力が大きく上昇しているので受け止めることも弾き返すことも容易となっていた。

 キンッと金属同士が衝突する音が響き、ハウザーは目を見開いた。

 フェイドの足元の地面は蜘蛛の巣状にひび割れ、ハウザーの一撃の力強さを表していた。


「まさか俺の一撃を正面から受け止めただとっ⁉」


 だがフェイドは、顔色一つ変えずに軽々と受け止めて見せたのだ。

 その光景に周囲の者からも驚きの声が上がる。

 将軍の中でも最も力に秀でているハウザーの一撃が、簡単に受け止められたのだから。

 フェイドは受け止めた大剣を弾き返して攻撃に転じる。

 攻撃が弾かれたことで体勢を崩したハウザーへと迫る漆黒の剣。誰もがハウザーの負ける姿を想像したが結果は違った。


「負ける、かぁぁぁぁぁぁああ!」


 ハウザーの魔力が膨れ上がり、衝撃波がフェイドを襲った。

 このまま無理に攻めようとはせず、一度下がることで体勢を立て直すことにした。

 溢れるハウザーの魔力が、大剣へと注がれていく。


「認めよう。お前は強いと。魔王様、少々荒れるとは思いますがご容赦を」

「構わない」


 魔王の許可も下りたということでハウザーの口元に笑みが浮かび、ハウザーと手に持っている大剣から凄まじい力が放たれている。

 ハウザーから溢れる魔力によって足元の地面が蜘蛛の巣状にひび割れる。


「それじゃあ、本気でいくぞ!」


 ハウザーの姿が消えた。

 そう錯覚するほどの速度で迫り、フェイドの背中を切り裂いた。

 鮮血が舞うと思われたが、切り裂かれたはずのフェイドは霧散して消えた。


「なにっ⁉」

「大した力と速度だ。以前の俺だったら苦戦していたところだ」


 声が聞こえた方向に目を向けると、一カ所に闇が集まりフェイドが現れた。

 外傷は一切なく、悠然と佇んでいた。


「どうやってあの一瞬で躱した?」

「俺は闇魔法を使うが、ただの闇魔法じゃない」


 その言葉で察したのだろう。


「魔王様と同じ、覚醒者か」

「ご名答だ」

「だが、その程度諦めてたまるものか!」

「その意気はよし」


 虚空から現れた闇がハウザーの体を拘束した。

 どんなに力を入れても拘束を破ることができず、思わず驚いてしまった。


「何故だ!」

「俺はただの覚醒者じゃないんだ」


 ハウザーが説明を求めようとフェイドへと顔を向けた瞬間、その足元から周囲に闇が広がり、そこから無数の強大な気配が広がる。


「あ、ぁ……」


 声にもならないような声を上げるハウザーは、その中で一際巨大な気配を感じ取っていた。

 ハウザーの感じ取った気配の正体が、無数の魔物や騎士達と共に出現する。

 そして、厄災の龍と恐れられる漆黒のドラゴンが咆哮を上げた。

 神威を思わせる咆哮は全ての者に畏怖を与えさせた。


「や、厄災の龍……」


 厄災の龍の胸部が紅く染まるのを見て、ハウザーは武器を下げて降参した。


「私の、負けだ……」


 ハウザーの降参により、フェイドの勝利で終わるのだった。

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