9話:八魔将

 翌日になり、エリシアに呼ばれてフェイドは玉座へとやってきていた。

 そこには多くの配下である魔族達がおり、先日フェイドに敵意を向けてきた者達も先頭に並んでいた。

 エリシアが現れたことで、玉座の間にいる配下達全員が膝を突いて首を垂れた。


「面を上げよ」


 エリシアの言葉で顔を上げた全員が、その隣にいるフードを被った人物へと視線が集まる。

 みんなが思うことは同じ。魔王の隣にいるその者は一体何者なんだということだった。


「みなに紹介したい者がいる」


 エリシアが隣に立つ、フードを被った者へと顔が向けられ一歩前に出た。


「この者はフェイドだ」


 紹介されたフェイドがフードを外した途端、一斉に敵意と殺意が放たれる。

 この場に集まる魔族は誰もが強者であり、その敵意と殺意を浴びてなお平然としていた。


「魔王様! 人間ではないですか!」

「どういうことか説明を!」

「何故この魔王城に人間を招き入れたのですか!」


 魔王であるエリシアに説明を求める声が上がる。

 フェイドがやってきた時と同様、敵である人間がいるのだから敵意や殺意が飛んでくるのは仕方がないといえる。


「静まれ」

「ですが! これはあまりにも!」


 エリシアは静かにするように言うも、それでも次々と非難や説明を求む声が寄せられる。

 しばらくしても非難は止まずに続き――誰もが押し黙った。

 否。エリシアから放たれる圧によって強制的に黙らせられたのだ。


「私の声が聞こえなかったのか?」


 圧し掛かる濃密な魔力に、面々は一斉に膝を突いて首を垂れた。

 エリシアは静まった広間を見渡して放っていた魔力を解除したことで、面々は安堵の息を吐いた。

 静かになったことを確認してエリシアは呟く。


「私は厄災の龍を仲間に引き入れようとして戦闘となり、死にそうになったところをフェイドに助けられた」


 魔王が厄災の龍を相手に戦い負けそうになったという発言を聞いて広間がザワついた。

 魔族を統べる最強の王が、厄災の龍を相手に死にかけたと言った衝撃は大きかった。

 中からは舌打ちする者がちらほらと存在する。

 エリシアは気にはしていなかったが、舌打ちをした一人が立ち上がり口を開いた。


「魔王様、そのフェイドという人間は味方なのですか?」


 誰もが聞きたい質問であった。


「フェイドと私は手を組んだ」

「手を組んだとは? 仲間とは言い切らないのですね?」

「その通り。フェイドとは共通の敵を倒すために手を組んでいるだけだ」

「共通の敵というのは?」


 その質問に答えのはエリシアではなくフェイドであった。


「人間だ」


 誰もが押し黙った。人間が人間を敵と言ったのだ。

 フェイドはどうして人間を敵としているのか、その理由を語りだす。

 フェイドが話している最中、誰もが黙って聞いていたが話しが終わると先ほどの質問をした男が口を開いた。


「やはり人間とは愚かな生き物だ」

「まったくもってその通りだ。勇者も国も全て俺の敵だ。俺の復讐を邪魔するヤツは誰であろうと許さない」


 フェイドから一瞬だけ放たれた圧に誰もがゴクリと喉を鳴らした。

 一瞬だけだったが、この場の誰もがフェイドとの実力差を否応なく理解してしまった。

 それでも人間を許せない男は、フェイドへと敵意をぶつける。


「俺は人間に家族を殺された。それも無惨に……」


 悔しそうに、それでいて恨めしそうに拳を握りしめていた。

 それでも魔王御前であるからか、武器は抜いてはいなかった。


「俺は人間自体が許せない」

「そうか。俺は魔族に恨みなどない」

「だとしても、俺以外にも人間に強い恨みを持っている者が多く存在するのは確かだ」


 男はエリシアへと向き直り膝を突いて頼んだ。


「魔王様、どうかこの者と戦うことを許してはくれないでしょうか?」

「ハウザー。お前は数少ない将軍の一人であり、魔王軍を動かすのに大切な存在だ。それは理解しているな?」

「ハッ!」

「ではどうしてフェイドと戦う?」

「何もせずにいては、一緒に戦うことすら許せないからです」


 ハウザーと呼ばれた魔族の男は将軍の一人であり、その目には強い意志が宿っていた。

 理解したエリシアはフェイドに尋ねた。


「いいのか?」

「構わない」

「わかった。ただしフェイド、ハウザーを殺さないでくれ」

「知っている」

「ではハウザーよ、フェイドと戦うことを許可しよう」

「ありがとうございます。私は殺す気でいかせていただきますが、よろしいでしょうか?」

「殺す気でフェイドと戦ってみるといい。では場所を移すとしよう」


 こうしてフェイドは魔王軍の将軍の一人、ハウザーと戦うことになるのだった。


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