8話:魔王城
ドラゴンの背に乗って飛び続けること数時間。
遠方の方に大きな黒い城と城下町、その全体を囲む壁が見え始めた。
「あそこが魔王城のある、王都デルザストだ」
魔族領自体が、人間領とさほど変わらないので景色などに違いはない。
ただ、魔王城が黒いので目立っているくらいだった。
「大きい城だな」
「うむ! 代々魔王が受け継ぎ改築を重ねた結果、あのように大きな城となった」
「道理で大きいわけだ」
未だに距離があるのにも関わらず、城の巨大さが伝わってくる。
「ところで、このまま魔王城まで行っていいのか?」
フェイドはエリシアにそう尋ねた。
その理由は単純で、今背に乗っているドラゴンが黒銀色ということもあり、大きさも一般的なドラゴンに比べてそれなりに大きかった。
騒ぎになるのではないかと懸念していたのだが、エリシアはあっけらかんと答えた。
「別に気にすることもない。このまま魔王城の最上階に行こう。案内は私がする」
「はあ、わかったよ」
それでいいのかと呆れながらも、フェイドはエリシアに案内されるがままに移動する。
王都の付近まで来ると、外や王都を囲む城壁の上に兵が多く集まっていた。
「無視しろ」
エリシアがそう言うので、フェイドはそのまま魔王城へとドラゴンを進める。
城付近はドラゴンが近づいていることから騒ぎになっているが、エリシアは飽きれたようにため息交じりに呟いた。
「勇者が攻めてきたわけじゃないのにこの程度で騒いでどうするのだ。全く……」
ドラゴンは脅威なのだが、それは強者であるからそこ出た言葉であった。
他の者からしたらドラゴン一体だけでも十分に脅威なのだから。
「あそこに見えるバルコニーに降ろしてくれ」
「わかった」
魔王城の最上階にあるバルコニーへと近づくと、エリシアはドラゴンの背から飛び降りた。
するとそこに、配下であろう武装した魔族数人が現れて武器を向けた。
「魔王様! ご無事でしょうか!」
「お怪我はございませんでしょうか!」
「早くお下がりください。ここは私達が!」
フェイドは駆け付けた魔族たちを見て、一目で強者達であると見抜いた。
この者達は、エリシアの言っていた将軍達であり、ここに居ない者達は他の場所へと配属されている。
「武器を収めろ。私は無事だ」
「ですが、そのようなボロボロのお姿は一体……それにこのドラゴンは……」
その時、ドラゴンの背に乗っているフェイドを見て警戒を強め、収めた武器を取り出してこちらに向けた。
「何者だ!」
先頭の男がフェイドへと武器の切っ先を向けて問い質す。
フードで素顔が見ないフェイドを警戒するのは当たり前だが、それに待ったをかけた人物がいた。
当然、その人物とはエリシアである。
「言ったはずだ。武器を収めろと」
「ですが、この者の正体がわからないとなれば、警戒するのは当たり前です。勇者の可能性だってあります!」
勇者が魔王と一緒に行動するわけがないだろうと思いながらも、フェイドは被っていたフードを降ろして素顔を露にした。
素顔を表して、その正体が人間と気付いた時、全員から殺気が飛んできた。
一般人なら死んでいても可笑しくない、濃密な殺気を一点に浴びているフェイドはそれを柳に風と受け流し――殺気を放つ。
「うっ……」
「ぐっ、これは凄まじいな」
「人間にこれほどの者がいたか。やはり勇者か!」
何を言っても聞く耳を持たないと判断したフェイドは、さらに濃密な殺気を放ちながら告げる。
「やるのか? 俺は全然構わないが?」
フェイドの背後に広がる闇を見て、どこからかゴクリッと生唾を飲み込む音が聞こえたのと同時、エリシアから声がかかった。
「お前達、それにフェイドもこれ以上は私が許さない」
「ですが、相手は勇者の可能性が――」
エリシアは配下へと殺気を放つ。
「私の命令が聞けないのか?」
「――ッ! 申し訳ございませんでした!」
エリシアはフェイドへと向き直る。
「フェイドもそのくらいにしてほしい。私とフェイドは対等な関係だと思っている」
エリシアの言葉にフェイドは放っていた殺気を消して広げていた闇を収めた。
エリシアの配下達は、フェイドから放たれていた殺気が消えたことで安堵していた。
フェイドはバルコニーに降り立ち、乗っていた黒銀色のドラゴンを闇へと戻すが、その光景を見た魔族達から驚いた声が聞こえた。
「ドラゴンが消えた⁉ まさかお前が召喚したのか?」
「そうだ」
これ以上は信用してない者に自身の力を無暗に教えるわけにはいかず、後から知ることになってもそれは今話すことではない。
エリシアは配下達に明日は玉座の間に集まるように命令する。
「私は少し休む」
「ですが、この者は一体……」
「フェイドといい、人間だが魔族の味方だ」
「信じていいのですか? 危険ではありませんか?」
男の言葉は尤もだ。
敵対している人間が魔王城におり、味方と言われているのだ。信用するには情報が不十分であった。
「安心しろ。本当に味方、いや。これには少し語弊があるか」
エリシアはそう言って言い直す。
「フェイドと私達と同じ敵を持つ者だ。だから手を組んだのだ」
「同じ敵ですか」
周囲から疑心の眼差しがフェイドへと向けられる。
「それに、フェイドが本気を出せば私ですら手に負えないほどに強い。お前達ではすぐに死ぬことになる」
「冗談、ですよね?」
エリシアの眼は嘘を吐いていなかった。
「私が嘘を吐くと思っているのか?」
張り詰めた空気に男達は膝を突いて頭を垂れる。
「フェイドは敵ではない。決して敵に回すような真似は許さない」
「「「――はっ!」」」
「話は以上だ。フェイドには後で部屋を用意させる」
「助かる」
こうしてフェイドは、久しぶりのふかふかのベッドで寝ることができるのだった。
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