7話:怪しい動き
魔王エリシアと手を組んだことになったフェイドは現在、ドラゴンの背に乗って魔王城がある王都へと移動していた。
「俺とエリシアが手を組んだのは良いが、魔族になんて言われるだろうな」
「私が独断で人間と手を組んだと言えば非難の声は来るのは確実よ」
個人とは言え、敵対している者同士が手を組んだのだ。
「私が説得しよう」
「できるのか?」
その質問にエリシアはふっと笑った。
「一部は言って来るだろうが、実力と事情を話せば理解してくる者は多い」
「魔族は実力主義とでも言いたいのか?」
「その通りだ。魔王軍の幹部である将軍は死んだ者も含めて七人いる。その誰もが、魔族の中でも最も強い者達だ」
「魔王の座はどうやって決めている?」
純粋な疑問であった。
人間は代々、世襲王制となっているので、魔族も同様なのかと思っていたフェイドだったが違ったようだ。
「魔王とは魔族の中で最も強い者が着く座だ。そして私は、魔族の中で最強の存在ということよ」
「なるほど。つまりは実力主義ということか」
エリシアは頷き言葉を続ける。
「魔族最強の私が、フェイドには勝てないと言ったのだ。魔族の中で勝てる者はいない。だから安心するといい」
「安心ね。できそうにないけどな」
実力主義ということは、少なからず反感を買いフェイドに戦いを挑む可能性がある。
それを危惧しての発言であり、できれば戦いたくないと言うのが本音であった。
その理由は単純で、戦力を減らしたくないからだ。
これからもっと激化する可能性があり、無暗に駒を減らしたくないのだ。
「その時は何とかするか……」
「何か言った?」
「いや。何でもない。魔王城まではどれくらいで着く?」
その質問にエリシアは顎に手を添えつつ目を瞑って思考する。
「ふむ。徒歩で数日の距離だったが……空でこの速度となれば今日中には到着するだろうな」
想像よりもドラゴンの移動が速いことに、エリシアは驚愕していた。
そもそも、ドラゴンに乗るという人自体が存在しなかったのだから驚いて当然だった。
徒歩で魔王城まで四日、馬車で二日、ドラゴンで半日となっており、空での移動手段がどれだけ速いか表していた。
フェイドは移動の最中、エリシアから現在の魔王軍の戦局を聞いていた。
「知っての通り魔族領は北部にある。現在は南と南西、南東の防衛ラインを一歩下がらせることで何とか侵攻を食い止めている状況だ。幸いと今いる東側にはこの山脈のお陰で侵攻ができていない。西側には海が広がっているが、そこからの上陸も時間の問題だろう」
魔族領は自然の要塞ともいえる場所にあり、なんとか防衛ができている状況となっていた。
だがエリシアの言う通り、海からの侵攻は時間の問題といえた。
「エリシア、連合軍は海側からの侵攻を考え、船の建造を行っている」
「なんだと⁉ それは本当か!」
魔王軍も、これ以上戦力を割くわけにはいかなかった。
南西と南東の防衛で精一杯であったからであり、連合軍もそれを理解しての海からの侵攻を企てていたのだ。
「魔王軍にはこれ以上割ける戦力などないぞ……上陸させる前に迎え撃つのが最善策なのだろうが……」
それ以上にもっと良い案があるのでフェイドは提案する。
「いっそのことこのまま人間領に向かって船を壊してくるか?」
「何を急に……」
だがエリシアは「いや、ありなのか」と小さく呟いた。
そこから目を瞑って、ぶつぶつと呟きながらフェイドからの提案を脳内で色々と考えていた。
このまま二人で乗り込んで船を破壊したところで、また作られては時間を稼いだだけにしかならないことは明白である。
「いいや。それは止めておこう。時間稼ぎにしかならない」
「それもそうか」
「だが、フェイドのお陰で海からの侵攻も濃厚になってきたから、どう防衛するかを考えないといけなくなった」
エリシアは顎に指を添えて今後の動きを考えており、フェイドは難しそうな表情をする彼女を見て「魔王も苦労しているのか」と思うのだった。
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