第1章

1話:竜狩り

 ――四年後。

 フェイドは自身の『祝福ギフト』がどういったものなのかを理解していた。

 フェイドの持つ『祝福ギフト』の名前は『黒の支配者』という名前だ。

 できることは闇魔法と、死んだ者や死んだ魔物を自らの戦力として軍勢に取り込むことができる。

 この軍勢だが、術者の魔力が続く限り何度でも蘇る。

 そして一番の特徴は、軍勢として取り込んだ者や魔物の二割の力を術者が取り込めることだ。

 取り込まれた者の力の二割が術者にいき、八割の力で軍勢として召喚できる。

 しかもだ。取り込める数に制限はない。

 つまりは、軍勢として取り込めば取り込むほど、フェイドが強くなるということだった。


 フェイドは現在、人間領と魔族領の境にある山脈の麓までやってきていた。

 街に行けば手配されているので、見つかれば大事になってしまう。

 村なら身バレの心配は少なく、魔物の素材と引き換えに泊まらせてもらったことが多々あった。

 森を歩き、山脈が近づいてきた。

 見上げると飛竜種の下位であるワイバーンが飛び回っていた。

 大きさも五~七メートル前後と、ドラゴンと比べれば小さいほうで、そこまで強くはない。

 兵士数十人で、ようやく一匹を仕留めることができる強さしかない。

 ワイバーンが下を歩くフェイドに気付く。

 鳴き声を上げると、飛んでいたワイバーンが一斉にフェイドの方へと向かって降下を始めた。


「このまま通してくれればいいものを」


 面倒くさそうに迫るワイバーンを見つめる。

 敵は空を飛んでおり、軍勢を呼び出したところで壁にしかならない。

 今は飛べる魔物がいないのだ。

 なので、フェイドは魔法名を呟く。


「――闇の矢ダークアロー


 無数に展開された漆黒の矢が迫るワイバーンに向けて放たれた。

 ワイバーンの皮膚は鱗に覆われており、並大抵の魔法では傷すら付けられない。

 だが、フェイドの放った魔法はその鱗を貫き次々とワイバーンを地面に落としていく。

 程なくして空を飛んでいたワイバーンは消え去り、地面で苦しそうにこちらを睨んでいた。


「そう睨むな。先に攻撃してきたのはお前達だ」


 ワイバーンの影から漆黒の槍が腹部を貫通し、全ての命を刈り取った。


「だが安心しろ。俺の配下として戦わせてやる」


 フェイドの足元から闇が広がり、死んだワイバーンを地面に引きずり込んだ。


「――来い」


 フェイドが一言そう告げると、闇から漆黒に染まった一匹のワイバーンが現れた。

 現れたワイバーンはフェイドを見て頭を低くする。

 闇の軍勢となった者や魔物に自我は存在しない。

 フェイドは現れたワイバーンに乗り、空へと飛び立つ。

 元々ドラゴンを戦力に加えようとしていたが、このような形で空の移動手段を確保できたのは幸先が良いと思っていた。

 歩きでの移動は億劫だったので、フェイドとしても大助かりだった。

 心地よい風を感じつつ、ドラゴンが多く住む山脈へと近づきつつあった。

 しばらく空を飛んでいると、一匹のドラゴンを見つけた。

 遠くから見てもデカいとわかる。

 近づいていくと、向こうもこちらに気付き近付いてきた。

 距離は次第に近くなり、あまりの大きさに目を見開いた。

 全身が厚い鱗に覆われた、体長二十メートル強はある銀色のドラゴンであった。

 ドラゴンがフェイドを見て咆哮を上げ、ビリビリと空気が振動して威圧感が伝わってくる。

 思わず畏怖よりも、伝説のような存在を前に自然と笑みが浮かんだ。

ドラゴンは本来『天災』と呼ばれ、一匹いるだけでも国を脅かす存在とされてきた。

 それが、この山脈にはゴロゴロと存在する。

 フェイドは、このドラゴンは自分よりも格上だと、強いと本能で感じていた。

 だが逃げるようなことはしない。

 この四年間で、強くなるためにたくさんの魔物を倒し、闇の軍勢として、己の力として取り込んできたのだから。

 フェイドは闇魔法で作り出した剣をドラゴンへと向け、口元を不敵に釣り上げた。


「かかって来いよ。お前も俺の軍勢に加えてやる」


 そしてフェイドとドラゴンの戦いは始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る