2話:漆黒のドラゴンと少女

 先に動いたのはドラゴンの方だった。

 顎門が開かれると、そこから数メートルはある火球がフェイド目掛けて飛来する。

 迫る火球へとフェイドは手のひらを向けると、闇が渦になって現れた。


「――飲み込め」


 言葉と同時。火球は出現した闇へと飲み込まれたことで消滅した。

 ドラゴンも驚いたのか、思わず動きを止めていた。

 その隙をフェイドは見逃さない。

 ワイバーンでドラゴンとの距離を詰める。

 ドラゴンは迫るフェイドを前に鉤爪を振り下ろした。

 フェイドは自身を切り裂こうと迫る爪を前に、冷静にそれを見据えて作り出した剣で受け流した。

 威力は高く、受け流したにも関わらず反動で吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ!」


 乗っていたワイバーンから振り落とされ、空中に放り出されてしまう。

 だが、ワイバーンがすぐに駆け付けたので、体勢を整えて着地する。


「想像以上だ。これはどうしても戦力として加えたいところだ」


 笑みを深めるフェイド。

 ここで多くのドラゴンを手に入れれば、連合軍など容易に片付けられる。

 加えて自身も強くなるのだから、これ以上にない好機といえた。

 フェイドはドラゴンへと迫り剣を振るう。

 フェイドに剣術の知識などなく、武術のどれもが我流となっている。

 それでも四年間で数多くの魔物や騎士達を倒してきたフェイドの力は相当なものとなっている。

 次第に強靭な鱗を持つドラゴンの肌に傷が出来はじめた。

 その数は次第に多くなっていき、ついには鮮血が舞った。

 ドラゴンから悲鳴が上がり、フェイドから距離を取り睨みつけた。

 ドラゴンは当初、このような矮小な人間など一方的に嬲って終わりだと思っていた。

 だが、この人間はしぶとく、さらには長年傷すら付けられることのなかったこの身に傷をつけたのだ。

 自身を殺しうる力を持つ強者といえた。

 故にドラゴンはフェイドのことを敵と判断し、最大の一撃を以って屠ることに決めた。

 顎門を開き、ヒュゴッという音共に胸部が大きく膨張した。


「まさか!」


 フェイドはドラゴンがこれから何をしようとしているのかを察してしまった。

 ドラゴンから膨大な魔力を感じ取る。

 逃げようにもあの縦に割れた竜眼はフェイドを捉えている。


「逃がすつもりはないってか? いいさ。元から全て倒すつもりで来ているんだ。受けて立つ」


 ドラゴンから白銀のブレスが放たれた。

 まともに受ければただでは済まないことは明白であり、火球を飲み込んだような魔法では意味をなさい。

 闇の軍勢すらも、壁にすらならない。

 フェイドは闇の剣を消し、手のひらをドラゴンへと向けて魔法名を唱える。


「――闇の帳」


 フェイドの正面に、巨大で幾何学模様の魔法陣が展開されて輝きが増す。

 結界が展開するのと同時にブレスが直撃してビリビリと揺さぶられる。

尚も続くブレスに、展開された結界が破壊される様子はない。

 数秒、あるいは数十秒が経過した頃。ようやくブレスが止んだ。

 ドラゴンはフ自身が放てる最高の一撃を、無傷で防いだフェイドを見て目を見開いていた。


「そんなに驚いたか? 返礼だ。受け取ってくれ。――黒蝕イクリプス


 魔法陣から無数の黒い腕がドラゴンへと伸びる。

 焼き尽くそうとするが、すぐに再生してドラゴンに迫る。

 マズいと思ったのか、ドラゴンは距離を取ろうとして死角から迫っていた腕に足が掴まれた。

 悲鳴のような声が聞こえ、残りの迫っていた腕に拘束された。

 掴まれた場所から黒く染まっていき、ものの数秒でドラゴンは黒く染まって闇に引きずり込まれてしまった。

 フェイドはドラゴンを闇の軍勢に加えたことで、さらなる力が得たのを感じていた。


「一体だけでこれほどの力が得られるのか……」


 ドラゴン一匹から得られる力に驚いていた。

 このままここにいるドラゴンの大半を闇の軍勢として取り込めば、大きな力が得られるのは確実であった。

 フェイドは一度地面に降り立ち、ワイバーンを戻す。

 そして、先ほど闇の軍勢へと加えたドラゴンを呼び出す。


「――出て来い」


 フェイドの呼び出しに応じて影が広がって一匹のドラゴンが現れた。

 元は銀色だったが、黒銀色っぽい色合いをしていた。

 ドラゴンは首を垂れる。

 そのままドラゴンの背に乗り命ずる。


「では、ドラゴン狩りの時間といこうか」


 ドラゴンはゆっくりと羽ばたき空へと飛び立つ。

 フェイドは周囲を見渡しつつドラゴンに命令する。


「ドラゴンが多い場所に向かえ」


 グルルルッと鳴き、速度が増した。

 それからフェイドは、次々と山脈に住むドラゴンを闇の軍勢へと加えていった。

 今ではドラゴンの数は百を超え、今乗っている黒銀色のドラゴンよりも遥かに大きいドラゴンですら軍勢へと加えていた。

 どれも強大な力を有しており、今のフェイドは最強に近い力を有していた。

 しばらく山脈を飛び回っていると、麓の方から戦闘音が聞こえてきた。

 感じる魔力はフェイドほどではないにしろ、それなりの大きさを感じていた。


「これほどの魔力……何者だ?」


 片方は今まで以上に巨大な魔力を有しているが、もう片方の魔力はその半分ほどしかない。

 一体何が戦っているのか気になったフェイドはその場へと急ぎ向かった。

 数分で戦っている場所へと到着すると、そこにはピンクの長髪に赤い瞳をした美少女と、一匹の巨大で漆黒のドラゴンが睥睨していた。



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