第34話
遠く離れていても、カザミナの魔力は共鳴し合う。
今も感じている。数こそ少ないが、母と同じあたたかい魔力の波動。彼らもミスイと同じように、正体を隠しながら生活しているはずだ。
あなた以外にクロカミのカザミナ族がいるのに。
クロカミのカザミナ族などという稀有な存在はミスイ以外にありえない。
いや、本当は一人だけ心当たりがいる。だが彼女はもう死んでいるはずだ。
最期の言葉を交わしたのは極寒の地だった。ユラクに無理やり武器を持たされても、人殺しなんてできないと泣き喚いていた。ミスイと違って、射撃も格闘術もなにひとつ体得しなかった。鈍くさいやつだと散々馬鹿にされていた。
だが心優しい子だった。ミスイが腹を空かせていると小さな果実を半分にして分けてくれた。寒さに震えているとそっと身を寄せてきた。怪我をした鳥がいれば、手当てをした後でこっそり逃がしていた。
生まれを間違えてしまっただけなのだろう。今では心底そう思う。ユラクが父親でさえなければ。母さんが生きていたなら。きっと違う人生を歩んでいたはずだ。
何にもできなくてごめんなさい。お兄ちゃんみたいになれない。
猛吹雪のなか、動けなくなった妹を置き去りにした。その行為に迷いなんてなかった。敵はすぐ近くまで迫っていたのだから。立ち向かわなければ殺される。
ミスイが離れてすぐ、雪崩が起こった。容赦なく妹の体がのみこまれる光景をただ見ているだけだった。
◇
鼻先に冷たい何かが触れた。指先で拭うと湿っている。
雨か。うんざりしかけたがすぐにそうではないと悟る。
街行く人々は足を止め、空を見上げる。痩せ細った子供のはしゃいだ声を聞いた。
「雪だー!」
窓から顔を出す者までいた。
スラム育ちでも情緒を感じ取れるらしい。皮肉とともにそう思った。ミスイは構わず帰路につこうとして、しかし歩を緩めてしまう。
物珍しさに浮かれていた面々も次第に言葉少なになっていく。
幻想的な光景なのに、どういうわけか胸を締め付けられる。この雪を見ていると、悲しかった過去が鮮明に蘇ってくるみたいで嫌だった。
命が芽吹く春。ほどなくしてこの雪は降りやむだろう。季節外れの事故のようなものだ。こんな日があったことも、きっと忘れる。
だが舞い降りる白はいつまでも続いた。
寒さを感じた人々が身を寄せ合い出した。その吐息が白く染まる。
妹との思い出がとめどなくあふれてくる。ミスイは声にならない声でつぶやいた。
今もどこかで生きているのか。ヒズミ。
王国最高峰の魔法学院は何者かに占拠されました。 雨夜かおる @amayakaoru-4432
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