第75話 ふたたび、困ったお貴族様

 さてと、やるべき事を終えた私は自宅に戻った。そして、ローレンと連絡をとる。

 何故って? そろそろ我慢の限界に来てる筈だからだ。あれだけアキバに行きたいと言っていたローレンだ、今頃は既にネットで調べまくって行きたい場所をリサーチ済みだろうと私は考えているのだ。

 その場所に連れて行けば納得するだろうから、私はこのオフのあいだにローレンの相手をしようと思ったのだ。


 私は封じていた転移陣を開いた。すると、呼びかけるもなくローレンが現れた。


「おいっ! やっとか! タケッ、待ちくたびれたぞ!!」


 いや、ローレンよ…… 仕事しろよ。男爵としてだけじゃなく、議員としての仕事もあるだろう? 私がそう指摘するとローレンは言った。


「タケよ、忘れてるようだから言うが、俺の仕事はヤバそうな時をお知らせするだけだ。だから、時間は有り余ってるんだ」


 ハア〜…… そうですか。


「で、何処に行くんだ? 今日、明日はとことん付き合ってやるぞ」


 私はローレンにそう確認してみる。


「ホントか!? それならば先ずはアキバだ、タケ。メイドカフェに行きたい! ニャンニャンメイドに会いたい!!」


 連れては行くが入るのはローレンだけだぞ…… 私にはハードルが高すぎるからな。


「ナーニを言ってるんだ、タケ! 誰が通訳をしてくれるんだ! お前しか居ないだろうが!」


 クッ…… だが私はまだ諦めてはいないぞ、ローレン。


 取り敢えず弥生の家に行きマンションの転移陣を利用する許可を取る。弥生には正直に打ち明けた。


「まあ! 異世界アチラでタケにいがお世話になった方が、地球に転生されたの! ご挨拶したいわ、タケにい!」


 弥生にそう言われたので、私は仕方なくローレンを呼んだ。


「オウッ! ベリービューティフルガールッ!!」


 弥生を見るなりそう叫ぶローレン。お前、ひょっとしたらイタリア人の血筋が先祖に居ないか?

 言われた弥生は照れながらもちゃんと英語で挨拶をする。


「まあ、ガールだなんて…… 嬉しいですわ。でも、ごめんなさい、既にミセスなの、フフ。異世界アチラではタケにいがお世話になりました。幼馴染としてお礼を言わせて下さい。そして、コチラでもどうかタケにいを助けてあげて下さい」


「勿論です! タケには向こうで返せない恩義がありますから、私も出来る事は何でもするつもりです! しかし、本当にミセスですか? 私には大和撫子マドモアゼルにしか見えませんが?」


 絶対に今のローレンの先祖には色濃くイタリア人の血が入ってる筈だ! 私はそう確信を持って言える。


「フフフ、有難うございます。先祖を遡っても庶民の出ですから、マドモアゼルご令嬢ではありませんわ」


 あ、ローレンは大和撫子をマドモアゼルと表現したけど、弥生はそのままご令嬢と訳したな。私は気がついたが黙っておいた。話が長くなるからね。


 そして挨拶を済ませた私とローレンは東京の弥生とタカフミさんが使用しているマンションの部屋に転移した。ここからアキバまでは電車に乗れば直ぐに着く。


「クアーッ、遂に憧れのアキバデビューだあーっ!!」


 ハイテンションの外国人は日本人からは引かれるぞとローレンに伝えたが聞いてないようだ。


「タケ、俺のお目当てのカフェはコッチだっ!! 付いて来い!!」


 私が案内する必要もなく、ズンズン歩くローレンについて行くと、いかにもな場所が目の前に現れた。店先では猫耳カチューシャをつけた若い娘たちが呼び込みをしている。

 そして、ローレンは英語で話しかけると、何と私の期待どおりに流暢な英語で返事をしている娘がいた。

 こ、これで私は同席する必要はなくなったな。


「ローレン、良かったな。私の通訳は必要ないようだ。私はちょっと電気街の方に用事があるから、抜けさせて貰うよ」


 私がそうローレンに告げると英語でローレンと喋っていた娘が私に向かって言う。


「えー、素敵なオジサマはご来店いただけないんですニャン?」


 うグッ! 私の中のオタク魂がうめき声を上げるが、私はいまやカオリちゃんという婚約者がいる身だ。ここは堪えなければならない。


「あ、ああ、済まないね。私はどうしても行かなくてはいかないんだ。コチラは30分コースなのかな? ああ、45分なんだね。分かった、その時間に迎えに来るからそれまでよろしく頼むよ。イギリスからやって来た正真正銘の男爵様だからもてなして上げて欲しい」


 私がローレンをそう紹介したら、その娘は私が責任を持ってニャンニャンするニャンと言った。


 ニャンニャンって…… ソッチ系のお店じゃないよな、ココ…… ちょっと不安だが私は電気街に向かう事にした。

 用事があるのは本当で、カオリちゃんに頼まれた魔道具を作ろうと思ってその材料を手に入れたいのだ。 


 その魔道具とはPC。パーソナル・コンピューターではない、パシフィック・コントローラーである。今回のパシフィックは原義である【平和な】という意味ではなく、太平洋そのものの事を指している。

 そう、カオリちゃんは太平洋をコントロールして、枯渇こかつしそうな資源、魚類の成育を高めようと考えたようだ。


 何故かって? それはカオリちゃんに聞いて欲しいところだが、私の私見をここで伝えておこう。


 カオリちゃんは、日本近海の魚介類が大好物なのだろうと思う。そして、同じく魚介類が好きな人が多くいる日本の為に、その資源が年々減ってきているのをうれいて何とかしようと考えたようだ。何て優しい娘なんだろうか? 異世界でも慈愛あふれる魔王だったが、地球に転生してもその性格は変わってないようだ。


(実際は私が食べるべき魚が減って食べられなくなる前に手を打たないと!! と考えたカオリである……)


 私は電気街でカオリちゃんに頼まれた魔道具を創る為の部品を買い揃えた。そして、ちょうど良い時間になったのでローレンを迎えに行くと、


「ミスター、また来て欲しいニャン、ニャンニャン」


 とお見送りを受けてるローレンを見た。


「See you later ニャンニャーン」


 うん、もうお前に突っ込むのは私は止める事にしたよ、ローレン。


 私はローレンの元に行き、声をかける。


「ちょうど良いタイミングだったようだな。ローレン、次は何処に行きたいんだ?」


「オウ! タケ。ニャンニャンちゃんたちとは悲しいお別れになったけど、次はアッチだ! 新たなメイドさんたちに出会いに行くぞ! 次はお前も一緒に入るんだぞ! 何故ならば、俺の【神託】にそう出たからだっ!!」


 何だって、ローレンの【神託】に私も一緒にメイドカフェに入ると出たんだ…… 私は気が重くなりながらも仕方なくついて行く事にした。

 そのメイドカフェでは懐かしい出会いが待っていたのを知るのは5分後の事だった……


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る