第76話 みたび、困ったお貴族様
ローレンに連れられてやって来たカフェは呼び込みはしてなかった。
普通に店内に2人で入ると、
「お帰りなさいませ、ご主人様」
と5人のメイドさんたちが出迎えてくれた。私はその動きを見て目を見張った。異世界でも一流と言われていたメイドを何人か見たが、その人たちに勝るとも劣らない完璧な動きだったからだ。
「フッフッフッ、どうだタケ! 驚いただろう!」
まるで自分の所のメイドを自慢するように私にそう言うローレン。まあこのカフェまで連れて来たのはローレンだが…… 何か私は納得がいかない。
「ご主人様、お疲れのご様子ですね。コチラへどうぞいらして下さい」
私の様子を見ていたメイドの一人が私を案内したのは診療所にあるようなベッドだった。
「どうぞうつ伏せでコチラに。マッサージ致します」
いや、ここカフェだよね? 私が不思議に思ってメイドさんを見ると、
「ご主人様、ここはメイドのいる仮想自宅空間でございます。私どもは性的な事は致しませんが、お疲れならばマッサージぐらいは出来ますし、その為に全員が資格を取得しております」
とこのお店のコンセプトを教えてくれた。そのメイドさんの後ろからローレンが言う。
「タケ、お前にも癒しは必要だろうからな! ここを調べて調べて調べまくって見つけた俺を褒めてくれて良いんだぞっ!!」
「私どもをお選びいただき有難う存じます、ご主人様。私は今からコチラのご主人様の疲れを癒やして差し上げたいと存じますが、よろしいでしょうか?」
見事な英語でローレンにそう聞くメイドさん。いや、この娘はここで仕事しなくてももっと活躍出来る場所があるよね、絶対。
「オウ、タケをたっぷりと癒やしてやってくれ。俺はコチラのメイドと共に部屋でティーを飲もう」
ローレンはそう言って後ろに控えていたメイドさんと一緒に違う部屋に向かった。
私は残ったメイドさんに促されるままにベッドにうつ伏せになった。優しくタオルケットをかけてくれるメイドさん。
「それでは施術に移らせていただきます、ご主人様」
そう言って私の首から背中にかけて程よい力加減で解していってくれる。私は少し興味があってメイドさんに話しかけてみた。そう、まるで異世界で出会ったメイドさんたちと同じように。
「一つ教えて欲しいんだけど、何故、この仕事を選んだんだい? ああ、勘違いしないで欲しいんだが、この仕事を馬鹿にしてる訳じゃないんだ。ただ、あれだけ流暢な英語を話せるならば、例えばツアーコンダクターとか、通訳とかの仕事も選べたと思ってね。もしも良かったら教えてくれないかな?」
「私は趣味と実益を兼ねてこの仕事を選びました。語学は暇だったもので、相性も良かったのでしょうが幼稚園で英語、小学校でフランス語とドイツ語と中国語、中学校で韓国語とラテン語、高校でタガログ語とロシア語を話せるようになりましたが、それらを職業にしようとは思いませんでした。それよりもご主人様、この辺りがかなり凝っておられますね……」
どんな言語チート持ちなんだ。話を聞いて私はツッコミを入れたくなったが、その時にメイドさんから魔力が溢れ、更に私の弱い部分を的確に押さえてきたので思わず、
「ウッ、クッ!?」
と呻いてしまう。そして、この魔力は……
「クッ…… ま、まさか、し、師匠ーーーっ!?」
私がそう叫ぶとメイドさんが今までとガラリと口調を変えて喋りだした。
「も〜う、やっと気がついたの〜、タケフミちゃん。やっぱりまだまだ未熟ねぇ。ちゃんと魔力の表面じゃなく本質を見抜きなさいって教えて上げたでしょう? 良かったわねぇ、私が敵じゃな・く・て・」
そう言いながらも師匠は的確に私の弱い部分を攻めてくる。私の如意棒が
クソッ! ここで果ててはカオリちゃんに申し訳ない! 私は必死で襲い来る快楽に耐えた。
「アラ? コッチはかなり鍛えたのね? 中々頑張るじゃな〜い。でもタケフミちゃん、いつまで耐えられるかなぁ? あ、そうそう魔王様と出会ったんでしょ? ビックリしたわ〜、地球で魔王様の魔力を感じた時には…… それに、さっきのイギリス人も転生者ね。私以外にも居たのねぇ、ソレソレ、どお?」
言葉を発しながらも攻めてくる師匠の手から逃れる為に私は自分に結界を張った。よし、コレで!
「あま〜い! タケフミちゃん、その結界は私が教えたモノよ、こうして、こうすれば、アーラ不思議? 私の手がすり抜けちゃいました〜」
グッ、ハッ! しまった、そうだった…… この結界も師匠から教わったものだった…… 限界を超えて私が果てそうになった時に、ソレは聞こえた。
『コラ! 馬鹿エロフ!! 私の婚約者に手を出すなんていい度胸してるじゃない! そこで黒焦げになりたいようねっ!』
カ、カオリちゃん! ダメだぞっ、人殺しはダメだ!!
私は必死にそうカオリちゃんに念を送る。しかし、師匠はまだ余裕を見せていた。
「アラ? 魔王様? お久しぶりで〜す。イヤだわ、手を出すなんて…… 私は師匠として最後の教えを授けてるだけですよ〜。魔力の本質を見なさいという教えを忘れたタケフミちゃんが悪いんですよ、魔王様。それに、コレは私の意思じゃありませんからね〜。豊穣の女神様に頼まれたコトですからね(まあ、方法までは指示されてないから私流ですけどね)」
『フンッ、それはいいけどもう手を離しなさいよっ! いつまでやってるのよ!』
「アラ? ダメですよ、試練なんですから。コレはタケフミちゃんがちゃんと抜け出さない限りは止められませんよ」
グッ、そういう事ならば…… 私は体内魔力を循環させて背中から第三、第四の手を魔力で出現させ、師匠の体を攻めた。
「アラ? ヤダ? それで私に勝てると思ってるの? エッ、ウソッ! いつの間にっ! なに、このテクニックはっ!?」
そう、コレは師匠と別れてから手に入れた称号、【
「ウソーーッ、私が逝かされるなんてーーっ!!」
フッ、勝った、勝ったぞーっ! 初めて師匠に勝った! 魔法じゃないのが残念だが……
「せ、成長、した、じゃない、タケフミちゃん……」
さすが師匠だ、逝ったばかりなのに声を出せるとは。
「フッ、いつまでも師匠を超えられないようでは弟子として不甲斐ないですからね。そして、一つ質問があります、師匠」
「アラ、なーに?」
クソッ既に通常運転だと。私はその事に驚愕しながらも
「私の初めてを奪ったエロフのあのお姉さんは…… 師匠ですね? 姿は違っても魔力の波長が同じだと気づいてはいたのですが、向こうでは聞き辛くて聞けなかったのですが」
「そうよ〜、気づいてたのね。さすが我が弟子だわ」
アッサリと認めた師匠に私は拍子抜けしたが、まあ長いこと確認したかった事の一つが確認できて良かった。
『タ・ケ・フ・ミ・さ・ん・…… 会った時にお話がありますからね、逃げないでね!!』
ウオッ! な、何でカオリちゃんが私に怒りモードなんだ? だが私は違いの分かる男だ。こういった時には逆らわない方が良いと分かっている。
「ああ、もちろんだよ、カオリちゃん。会ってちゃんと話をしよう」
私がそう言うとカオリちゃんの気配は消えた。
「アラ? 魔王様は行っちゃったのね。魔王様にも話があったのだけど…… まあいっか。タケフミちゃん、敵はもう分かってるのよね? そう、分かってるのね。それじゃ、今のタケフミちゃんが勝てない事も分かってる? アラ、その顔じゃ分かってなかったの?」
いや、そりゃ私も仮初にも【神】として崇められてる存在に対して楽勝とは思ってなかったが、負けるとも思ってなかったですよ、師匠。
「もう〜、本当に手間のかかる弟子だこと…… 取り敢えず豊穣の女神様から聞いたことを教えてあげるわ」
そう言うと師匠は私に何故、勝てないかを説明してくれた。
はい、納得しました…… というか、異世界の創世神よ…… アナタは神を辞めなさい…… 回り回って全てはアナタの所為じゃないか……
「まあ、とにかく頑張ってね、タケフミちゃん。私は今の人生にとても満足してるから壊されたくないの。主人ともラブラブなんだから、頼むわよ!」
サラッと今世で結婚してる事を暴露する師匠だが、私はそれについては突っ込まず、分かりました、善処しますよと返事をした。
「もお〜、その返事をした時は善処しない時でしょうー!」
そう怒られてしまったが……
その後、時間いっぱい楽しんだローレンと共にお店を出た私を見てローレンは
「何だ、タケ。余計に疲れてないか? ハッ、さてはお前、受けてはいけないサービスをっ!?」
などと言うので、頭を軽く
そして、マンションへと戻った時に、ちょうど仕事を終えたランドールの2人と出会ってしまった。
「オーッ!! 勇者、ナミ!! こんな場所で出会えるなんてっ!!」
ナミちゃんの前に片膝をついてローレンがそう叫んだ……
いや、勇者じゃないからな、ローレン。アイドルだよ……
この物語の主人公はローレンだっのか?
✱作者より
スミマセン、もう1話ローレンさんのお話が続きます。
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