第66話 高松の夜

 今日は移動だけだったので、ホテルにチェックインした後は何もなく、木山さんと中山さんに誘われて居酒屋に飲みに出掛ける事になった。

 というかあんなにうどんを食べたのにまだ入るのか、中山さん……


 部屋は木山さんと中山さんはツインの部屋に、私はその向かいにあるシングルに宿泊する事になっている。

 部屋に荷物を置いて時間まで読書でもしようと鞄から本を取り出した時にスマホに着信音が。

 タケシからだったので直ぐに出ると、


「タケフミ、何処に居るんだ? 今日は俺も仕事が終わったから一緒に飲みに行かないか?」


 と誘ってきた。すまない、タケシよ。その誘いにはのれないんだ。


「タケシ、悪いが今日から暫く仕事で四国に来ているんだ。だから一緒に飲みにはいけないんだ」


 私はそうタケシに謝った。


「おっ!? そうなのか。今度は誰のボディガードをしてるんだ?」


 守秘義務というのを私もやっと理解してきたので、ここは黙っておく事にした。


「何だよ、黙ったままで。まあ、いいか。それで、いったい何の用事だったんだ?」


 私が黙ったままでいるとタケシがそう聞いてきたので、私は本題にはいる事にした。


「あー、実は今度の仕事を終えたらお前に紹介したい女性がいてな。年齢は32歳だが、とてもキレイな人なんだ」


 私がそう言うと、タケシが私に聞いてきた。


「タケフミよ…… ソコじゃないだろ? エロフかエロフじゃないか、又は獣耳けもみみが似合うか似合わないかだっ!!」


 うん…… お前、本当に大丈夫なのか? こんなのが日本の治安を守っているとは私は信じたくないのだが……


「あー、タケシよ。私の意見なので参考程度に聞いておいてくれ。どちらかというと、清楚な見た目のご令嬢系だ」


「なっ!? なにーっ!! 子爵か? 伯爵か? いや…… まさかの侯爵かっ?」

 

 そ、そこは大事なのか、タケシよ。さっきまでエロフや獣耳けもみみって言ってたのは何なんだ? だが、ここで私は大風呂敷を広げた。


「タケシよ…… 惜しかったな。字が違う!! 公爵だっ!!」


「なっ! 本当かっ? それは本当なのか、タケフミ!?」 


「本当だ、タケシ。だがお前がどうしてもエロフや獣耳けもみみにこだわるというなら、この話は無かったこっ!」


「バカヤロウッ!! タケフミッ! お前、寝てるのかっ? そうか、寝惚けてるんだなっ!! いつ俺がエロフや獣耳けもみみにこだわったって言うんだっ!!」


 いや、ついさっきだよっ! 私は心の中で私の話の途中に割り込んで喋り始めたタケシに突っ込んだ。


「いや、悪かったな、タケシ。私にはタケシの言葉がエロフや獣耳にこだわりがあるように聞こえたんだ」


「分かればいいんだよ、タケフミ。で、いつお前の仕事は終わるんだ。俺にも心の準備と身だしなみに磨きをかける時間が必要なんだが?」


 くっ! 何故かムカつく。だがこいつは心友だ。心友がその気になってるなら応援しなくては。


「仕事を終えて東京に戻るのは来週の土曜日だ。相手の方の都合も確認してからだが、戻った翌日の日曜日なんてどうだ?」


 私がそう聞くとタケシは


「来週の日曜日だな。分かった。俺はそれまでに更にオトコを上げておくよ!」


 おう、上げておけよ。私はタケシにそう言って電話を切った。

 しかし、アイツは名前も聞かなかったがいいのか? まあ、いいか。会えば分かるだろうし。私はそう思い、やって来る駒への対処を考える事にしたのだった……



 そして夕方18時になり、木山さんと中山さんの2人と一緒にホテル近くの居酒屋に向かった。木山さんはかなり地味めな格好をしているが、やはり人気のある女優さんで、多くの人にバレている。

 私は【気配感知】と【魔力感知】を使用して不穏な気配や魔力が無いか周辺を確認する。今のところ何の問題も無いようだ。3人はまだ四国には到着していない。


 居酒屋には中山さんが予約を入れていたようで、個室に案内された。


「取り敢えず生中なまちゅう3つ!!」

  

 案内された個室に入るなり木山さんがそう店員さんに注文した。席につくと早速メニューを見始める木山さん。そんな木山さんをよこに中山さんが私に話しかけてきた。


「鴉さんのお友達は〜、何て言ってましたか〜?」


 ああ、そう言えば車の中でタケシに連絡してみると言ったな。私はそう思いながら中山さんに言った。


「乗り気になってましたよ。で、来週の日曜日なんですが木山さんのスケジュールはどうなんでしょうか?」


「土曜日に戻って〜、日曜日は珍しく収録も無いので、大丈夫ですよ〜。そうですか〜、乗り気になって下さってるんですね〜」


 メニューを見ながらも木山さんが耳をそばだてているのが分かる。私はスマホの画面にタケシを出して木山さんに見えないように中山さんに見せた。


「こんな顔のやつなんですが、どうですかね?」


 私がそう聞くと、


「あら〜、渋い感じの男前な方ですね〜。うん、この人ならいいんじゃないでしょうか〜」


 と、中山さんからは合格を貰えた。そこで辛抱できなくなったのか、木山さんが私のスマホを覗き込もうとしてきた。すると、中山さんが木山さんに見えないように手でスマホの画面を隠す。


「ちょっと、私が当事者なんだから見せてくれてもいいでしょっ!」


 木山さんがそう怒るが、中山さんはにこやかに言い放った。


「ダメよ〜、美登利さんが見ちゃったらこの人の事ばかり気にして仕事がおろそかになるのが目に見えてるから〜。金曜日の仕事終わりまでおあずけです〜」


 なるほど、そういう訳か。私もボタンを操作して画面からタケシの画像を消した。


「金曜日には必ずお見せしますから、我慢してください」


 そう木山さんに言うと、


「余計に気になるじゃないのよー」


 と木山さんが言うが、中山さんはにこやかにその方が仕事に身が入るでしょ〜と言って取り合わなかった。


 そこから、居酒屋の店長さんがやってきてサインをお願いされたりしたが、他には何事もなく楽しく飲み、そして、中山さんが豹変した……


「だ〜か〜ら〜、聞いてます〜? 鴉しゃん?」


「はい、聞いてますよ」


「いくら好きだからって〜、毎晩毎晩はやっぱり疲れるんですよ〜…… うちの旦那は私よりも年上のクセして〜、性欲が強すぎなんれすよ〜、ヨヨヨ〜」


 い、今の20代の口からヨヨヨ〜が出るとは思わなかったよ……


「あー、鴉さん、そろそろお開きにしましょう。この娘、早めにホテルに連れ帰って寝かさないと」


 木山さんが諦めたようにそう言ったのを契機にお開きにする事にした。


「ワラヒはまだまだ飲めるって〜! 美登利姉ちゃんも飲も〜」


「はいはい、ホテルに戻ったら付き合うから、戻りましょ」


 中山さんの相手を木山さんに任せて私は会計を済ませた。そして、外に出た時に絡まれた。


「おいおいオッサン、女2人侍らせていい身分だな〜」


「オレたち女っ気なくて寂しいんだわ、1人でいいからコッチにまわしてくれね?」


 ゴツい体格の大学生ぐらいに見える若い男2人が私にそう言ってきたのだ。こんな場所にもこんな若者がやはり居るのだなと私は思いながら、2人に私は言った。


「残念だが、君たちではコチラの女性2人を満足させられないよ。だから、先程の提案は丁重にお断りするよ」


「まあ、待ちまい、オッサン」

「オレたちで満足させられないかどうかは分からないだろう?」


 自分に変な自信のある若者があきらめが悪いのは異世界でも地球でも同じのようだな。 


「いや。絶対にムリだから」


 私がそう断言すると、2人とも怒りに顔を染めて殴りかかってきた。しかし、遅い…… 異世界の若者の方がまだマシだぞと思いながら、私は2人の拳を左右の手で止めてねじり上げた。


「ぐあっ、いでーっ! 離せよ!」

「こ、この、野郎っ! オレたちは空手をやってるんだぞっ! 今、離せば許してやるよっ!」


 寝言を言う若者2人だが、私はそのままにして、周りで見ているだけの人に警察を呼んでくれとたのむ。


 すると5分ほどで制服警官が現れた。事情を説明して2人の若者を渡す。被害届を出しますか? と聞かれたが被害は無いので結構ですと断り、コッテリと絞って下さいと頼んでおいた。


 ホテルに戻るのが少し遅れたが、部屋の前で木山さんが、


「鴉さんって見かけによらず、強いのね〜」


 と感心したように言い、中山さんも


「こりぇなら、鴉さんがいたら〜、安心らね〜」


 とまだ酔いながらそう言ってくれた。まあ、あの程度ならばタケシでも軽く対処するから、紹介する男性もあの程度の事なら軽く対処しますよと教えて、私は部屋に2人が入るのを確認してから自分の部屋に入った。


 さあ、明日からいよいよ撮影が始まるが、駒の3人はいつ仕掛けてくるかな? 私はそう思いながら2人の部屋に結界を張ってから就寝したのだった。 



 




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