第65話 四国へ
四国…… 私の中の勝手なイメージなのだが、日本であって日本で無い場所のようなイメージを持っている。
もちろん、言葉はちゃんと日本語が通じるのは承知しているし、日本の国土だと理解はしているのだが、地方名で【国】の名を冠しているのはこの四国と中国地方しかないのだ。
因みに中国地方は本州で陸続きなのであまりそういったイメージにはならなかったが、四国は狭いとはいえ海を隔てているので勝手にそう感じてしまっている。
なので私は日本であって日本でないと勝手なイメージを四国に持っていた。もちろん、そんな事は無いのだが……
そんな事を考えていたら、
「鴉さんは〜、独身なんですか〜?」
マネジャーの中山さんが唐突にそう聞いてきた。
「はい、独身ですよ。婚約者は居ますが」
私がそう返事をすると、中山さんは木山さんに怒った。
「じゃあ、ダメじゃない、美登利さん! このロケの間に口説くって言ってたけど、私は許さないからねっ! 母にいいつけます!」
おお、怒ってると間延びしないんだな。しかし、自身の叔母を仕事だからちゃんと名前呼びしてるのには感心だ。
「えっ! ちょ、ちょっと待って! 咲月!
ほう、木山さんでも実の姉には弱いんだな。私は楽しく2人のやり取りを聞いていた。
「ダーメ、絶対に母に言うから。もういい加減に結婚したら? 美登利さんなら
「私の名前に引っ掛けて言っても何の説得力も無いわよ、咲月!」
私は思わず声を出して笑ってしまった。
「ハハハ、仲が良いんですね。聞いてて楽しいです」
「鴉さん〜、そこで笑っちゃ緊張感が……」
と中山さんが言うと、木山さんが
「まあね、私と咲月は5歳しか年が変わらないからね」
と教えてくれた。随分と年の近い叔母と姪だな。私の不思議そうな顔を見て木山さんが答えを教えてくれた。
「私は6人姉妹の末っ子なのよ。咲月は長女の
はあ、6人姉妹ですか…… ご両親はかなり頑張られたようで。などと私はしょうもない事を思ってしまった。美登利さんは続けて言う。
「だから、私もどちらかというと、姪っ子だけど妹みたいに咲月を思ってるわ。でも、ダメよ鴉さん。咲月はもう既婚者だから、遊ぶのなら私にしておきなさい」
だから、私にその気はありませんよ、木山さん。私がそう伝えると中山さんも賛同してくれた。
「そうよ〜、美登利さん。ちょっと渋いイケメンさんを見たらすぐに惚れるのは治した方がいいと思うわ〜」
「フンッ! そんな事言って、自分は10歳も年上のイケオジと結婚した癖に! 私を差し置いて、あんなイケメンと結婚するなんてっ!!」
そこで私の頭の中にタケシの顔が浮かんだ。堅い仕事のタケシだが、顔も悪くないし…… ちょっとだけイタズラ心が湧いた私は木山さんにこう言ってみた。
「私はその気は無いですが、私の友人でよろしければ紹介しますよ。ただ、その友人は結婚歴がありまして…… 離婚した訳ではなく、死別なのですが。娘さんがいますが、もう大人ですから父親の再婚にも反対ではないそうですし、どうですか?」
私の言葉に木山さんは少し考え、
「鴉さんのご友人ってわけ? ちゃんとした人でイケメンなら紹介してもらおうかしら?」
と少し乗り気になったようだ。木山さんは32歳だし、言葉ほど妖艶な感じではなく、むしろ顔立ちは清楚系だ。
「分かりました、この仕事が終わったら友人に連絡してみす」
私はそう言ってタケシに忘れずに連絡する為に、マインをタケシに送っておいた。ちょうど今、タケシは警察庁勤務になって東京に単身赴任で来ているとマサシに聞いていたので、タイミングも良い。
マインにタケシから返信が来た。夜に電話して来るそうだ。私は分かったと返信しておく。
車は順調に進んでいたが、SAに休憩に入った時に中山さんに運転を変わりますと伝え、私が運転する事にした。何故なら中山さんが眠そうに何度もあくびを噛み殺していたからだ。
交通事故などは避けたいので私が運転を変わる事にしたのだ。
「すみませ〜ん…… 昨夜も夫が遅くまでゴニョゴニョ……」
いや、もうちょっと言い訳を考えて下さい。そんな暴露を聞かされても……
「またなの? 咲月の旦那も好きね〜、ホントに。そんなに毎晩毎晩求められてたらいくら20代でももたないわよ」
いや、木山さんももう少しオブラートに包んで発言してください。
「羨ましかったら早く結婚してくださいね、美登利さん」
中山さんの反撃! しかしダメージはないようだ。
「誰も羨ましいなんて言ってないでしょっ! 好きモノの旦那を持ってるからって自慢にならないわよっ!」
また言い合いを始めた2人を放っておいて車を発車させた私は、その後延々と続く言い合いをバックミュージックに車を四国まで運転した。
眠気など訪れなかったが、中山さんも眠気が吹っ飛んだようだった。
今日は香川県高松市で宿をとってあるそうで、瀬戸大橋を渡り香川県に入った。そこから高松市に向かう。
「ねえ、うどん屋に寄ってよ」
木山さんにそう言われた私は高松西インターで高速から降りてうどん屋さんを探す。テレビ局のスタッフには中山さんが連絡を入れて、少し遅れると伝えていた。
チェーン店のようだが、お客さんが多く入ってるうどん屋さんを見つけた私は駐車場に車をいれた。
うどん屋に入るとさすがにお客さんたちが木山さんに気が付き、中には写真をお願いしますと頼んでくる人もいる。
木山さんは快く応じていた。
お店からもサインを頼まれてそれにも応じる木山さん。こういう所が物言いの割にファンが多い理由なのかも知れない。
うどんは出汁も美味しく、麺も腰があって美味しかった。中山さんは大の上の横綱を頼んで店の人に心配されていたが…… 4玉をペロリと平らげて腹八分目で止めとこうって呟いていたので、いつか大食い番組などで顔を見る事になるかもと思ったのは内緒だ。
うどん屋を出て宿に向かう途中に、3人の能力者たちがコチラに向かって移動を始めたのを私は察知していた。
動く気配が無かったので四国には来ないと思っていたがどうやら考えが甘かったようだ。3人は別々に時間をずらして電車に乗って四国に向かってきてるようだ。
まあ来てくれる方が私としても有り難い。この四国でヤツの駒を減らしてやる。
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