第45話 大使館からの誘い


 翌日である。私は弥生の居るマンションに朝から居た。そこにはタカフミさんも居る。


 私は今から2人のプライベートに土足で踏み込もうとしていた。コレで嫌われてもしょうがないとは思うが、出来れば嫌われたくないなぁ……


 それでも私は意を決して言葉を2人に投げかけた。


「2人とも怒らずに聞いて欲しい…… 2人は、その…… 子供を授かる気持ちはまだあるかな?」


 キッパリと聞くつもりがちょっと弱気に聞いてしまった。だが、突然の私の質問に2人はキョトンとしている。


「タケにい、突然どうしたの?」

「タケフミさん、どうしたんですか?」


 2人からそう聞かれて私は口ごもる。その様子を見てタカフミさんが察してくれたようだ。


「ああ! 相川さんですね!? 僕の妹との間に6人目が出来てるらしいし、何か聞いたんでしょう?」


 それに続けて弥生も、


「フフフ、それでなのね…… タケにいらしいわね。でも、私もタカさんも子供はもう諦めてるの。2つの命を犠牲にしてしまったし……」


 と少し寂しそうに言った。


 そこで私は言う。


「今度は、今度こそは大丈夫だとしても?」


 私の言葉に2人はハッとした顔で私を見る。


「な、何とかなるんですか?」


 タカフミさんがそう聞いてきたので、私は静かに頷いた。


「で、でも医師も原因が分からないって言ってたのよ、タケにい……」


 弥生の言葉に私は真実を告げた。


「弥生、タカフミさん、落ち着いて聞いて欲しい。2人の子供が流産したのは呪いの所為なんだ。私は相川先輩から2人の流産の件を聞いて調べてみた。そして、弥生の体にもタカフミさんの体にも、出産に関わる時だけに発動される呪いがかけられている事が分かった。済まない、もっと早く私が2人を詳細に調べていたなら…… だが、まだ遅くはないし、呪いは全て跳ね返した。これからなら大丈夫だ」


 私の言葉に驚く2人。


「のっ、呪いですか!?」

「だ、誰が?」

 

 やっぱりそこは聞いてくるよな。私は言うべきか悩んでいたのだが、ここは素直に2人に伝えておこうと思い、呪いをかけた人を教える事にした。


「2人に呪いをかけていたのは、タカフミさんの弟だよ」


 私の言葉に更に驚いた顔をして、その後に顔を見合わせる2人。


「キヨフミだな……」

「キヨフミさんね……」


 2人とも心当たりがあったようだ。


「でも、タケにい、呪いなんて効果があるものなの?」


 弥生がそう聞いてきた。私は弥生の質問に答えた。


「昔から牛の刻参りなど、日本でも呪術に関しては色々な話があっただろう? 2人に呪いをかけていたキヨフミには恐らくその方面についての才能があったんだろうと思う。スキルとして発現していたようだ。私は2人にかけられた呪いの魔力を追って呪いをかけた人物を特定したんだが、訓練をしっかりとしていて、スキルの練度は高かったよ。まあ、全て封じ込めたが…… 跳ね返した呪いはその性質を変えておいた。どのように変えたかは聞かないでくれ。但し、もう2人に関わってくる事はないと断言だけしておくよ」


 言ってもいいが、聞くと引かれると思って私は跳ね返した呪いについては明言を避けた。

 心では心底、【女性】が好きなのに、実際に声をかけるのは全て【男の娘】になる呪いだ…… うん、我ながら嫌な呪いだと思う。


「あの、それじゃ、僕たちに子供が授かれるんですか……?」

「タケにい、タケにいの事だから私は信じてるけど、本当に?」


「ああ、先に流産した2人の子供たちもそれを願っているよ」


 私の言葉に弥生とタカフミさんが泣き出した。それを見て私はマンションを出た。コレで良かったのだろう? と弥生とタカフミさんを見守っていた2つの魂に問いかける。

 2つの魂は有難うの気持ちを私に伝え、昇天していった。


 

 そのまま東京事務所に向かった私は、相川先輩から新たな問題が出た事を教えられた。


「おう! タケフミ、来てくれたか。さっきコレが届いてな…… どうしようかと悩んでいたんだ。どうしたらいいと思う?」


 相川先輩が私に見せてきたのは招待状。それもイギリス大使館からのだった。私は招待状に残る残留魔力をた。

 残された魔力からは悪意は感じられない。むしろ、招待を受ける人を心配しているような雰囲気を感じ取った。

 招待されているのは勿論、深野さんだ。スコッチウィスキーを日本に紹介してくださるならとの理由が書かれていた。

 私は相川先輩に告げた。


「招待を受けても大丈夫だと思いますよ。但し、私もついていきます」


 女神に何かあってはいけないので、そこは譲れない。まあ、黙ってついて行ってもいいのだが、ここはちゃんと言っておくべきだろう。


「おう、タケフミがついて行ってくれるのか。なら安心だな。いや、あの手紙の件があるだろ? 俺も不安でな」


 私もその点は気になっていた。だが、あの手紙の残留魔力と、今回の招待状の残留魔力とは送り主が違う事はわかっている。なので、敢えてここは乗ってみるべきだろうと思ったのだ。


「だけど、タケフミの立場を向こうにどう説明したもんかな? 深野さんは通訳要らずだからなぁ……」


「そのままボディガードじゃダメですかね?」


 私がそう聞くと、相川先輩は困った顔をしたまま説明してくれた。


「いや〜、俺もそうは思ったんだけど、ソレってイギリス大使館を信用してないってとらえられないかな?」 


 ああ、それもそうか…… コレは困った問題だぞ。しかし、その問題を解決してくれたのは、何とエロフ…… じゃなく、ナツキさんだった。


「アラ、そんなに悩む事なの? 番組に参加する重要スタッフの1人ですって言えば、別に大丈夫じゃないかしら?」


 おお!! さすがは困った時のエロフ師匠だ! いや、違った…… まずいな、ナツキさんは見た目がエロフ師匠にソックリだから、つい……


 そんな私の内心の葛藤はともかく、それならいいなと相川先輩がいい、深野さんに知らせて行くかどうか確認してみようと動き出した。

 私は待機しておいてくれと言われて、応接室でナツキさんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。


「タケフミ、深野さんが10分ぐらいで来るから打合せするぞ。時間は1時間しかないからパパっとするからな。昨日みたいにボーッとするなよ!」


 相川先輩が応接室に入るなりそう言ってきた。また、女神のご尊顔を見る事が出来る!!


 私はボーッとしない自信は無いなと思いながら、ハイと中学時代と同じように大きな声で返事をしたのだった……

 

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