第44話 おかしな手紙
ボーッと深野さんに見惚れている私の脇腹に肘が突き刺さった。
「グハッ!!」
クゥーッ、き、効いた…… あの拳
私は肘打ちの主を見る。弥生は私からツーンといった感じで顔を逸らせていた。何でそんなに怒ってるんだ?
だが、私の思考はかけられた声によって遮られた。
「おう! タケフミ。やっと会えたな。忙しくて何度かココにも来てたって聞いたけど、会えなくて悪かったな」
相川先輩が私にそう声をかけてくれている。しかし、私はその声に反応してそちらを見てしまったので、また女神のご尊顔を拝謁する事に……
そしてまたボーッと見惚れてしまう私に、相川先輩からの声が遠くから聞こえた。
「ああ、お前、深野さんが大好きだったもんなぁ…… 今では当時より色気が8割増しになってるから、そりゃそうなるか……」
その遠い声の後に女神のお言葉が私にはハッキリと聞こえた。
「イヤね、所長! そんな事を言っても交渉はちゃんとしますよ」
交渉? 何を交渉しているのだろうか?
「うん? ああ、それは勿論だけど、今日はもう止めとこう。深野さんの絶大なる味方がソコに来たから、俺が圧倒的不利になった。だから、また後日で頼むよ」
「クスッ、分かったわ。それじゃ、今日はもう帰ります。お疲れ様でした」
相川先輩にそう声をかけてソファから立ち上がる女神。そして、突っ立ったままの私の側を通る時に、弥生と私にお声掛けをしてくださったのだっ!!
「ヤヨイちゃん、コチラの素敵な方が海外ロケの時にボディガードをして下さる鴉さん? そうなのね。鴉さん、また後日に打合せがあると思いますので、その時にちゃんとご挨拶させて下さいね。今日はこれで失礼します」
女神は颯爽と去って行かれた……
その後ろ姿が消えてからも私がボーッとしていたら、中学時代のままの感じで相川先輩に頭を
「オイッ、いい加減こっちに戻ってこいっ!!」
スパーンとハリセンで
「先輩、お久しぶりです、ご無沙汰しておりました」
正気に戻った私は後輩として挨拶をした。
「おう! やっと正気に戻ったか? しかしホントに良く戻って来れたな。良かったよ……」
相川先輩にはタカフミさんから妹さんを通じて事実を伝えてある。最初は信じなかったそうだが、弥生からも話を聞いて最終的にはランドールのボディガードの話をして、信じてくれたそうだ。
そこで私は警戒した。もしや、相川先輩も……
しかし私の心配は
そして先輩と一緒に奥から出てきた奥さんを見て何故、先輩がエロフスキー・ヤーでないかを私は悟ったのだった。
「はじめまして、タケフミさん。相川の妻でタカフミの妹の
現れた相川先輩の奥さんは、胸部装甲98cm(推定)、ウエスト56cm(推定)、ヒップ82cm(推定)、身長176cm(推定)で小顔、腰までのサラサラロングヘアーのエロフだったのだっ!!
ちなみに(推定)数値は誤差プラマイ0.5mmだ。
タケシ、マサシよ、私は間違っていた。地球にエロフは居ないと言ったが、ココに居た!
私の口からは思わず、
「エッ!?」
という言葉が漏れ出た。
「えっ?」
しかし、ナツキさんの「えっ?」で正気を取り戻した。
「いえ、何でもありません。はじめまして、
危なかった…… 危うくエロフと言うところだった……
「どうだぁ、タケフミ。俺の妻は美人だろぅ?
相川先輩の言葉に私は素直に頷いておく。そして、ナツキさんが弥生と話をしている。
「
「なっちゃん、大丈夫? まだ3ヶ月だからあまり動かない方がいいんじゃない?」
「フフ、大丈夫ですよ。もう6人目だから自分の体調は分かりますから」
なっ!? 6人目だって! さすが地球のエロフは違うな。異世界のエロフは子供が出来にくい体質だったのだが……
私は相川先輩を見た。
「いや〜、妻が魅力的でなぁ…… ついつい、なっ! 分かるだろー、タケフミ!」
はい、分かりました。その後、相川先輩の
初めて会ったのは前の事務所に勤めていた時で、相川先輩が酔いつぶれたタカフミさんを家に送った時に出会い、一目惚れしたらしい。
うん、他人の惚気話はどうでも良いな……
「ウチは子供が出来やすいみたいだが、タカフミ社長と弥生さんは2度、流産を経験してな…… 出来にくいみたいだから子供は諦めたって言ってるんだが……」
ああ、そうなのか…… それで2人の間に子供が居なかったんだな。機会を見てタカフミさんと弥生と話をしようと思う。
「さあ、それよりもタケフミ、深野さんの海外ロケの話だが、場所はイギリスでスコットランドに行って、スコッチウィスキーを紹介する番組のロケなんだ。お前、英語は大丈夫か?」
フフフ、良くぞ聞いてくれました、先輩。ココで私は自慢にならないように説明した。
「先輩、異世界に行った特典なのか分かりませんが、私は恐らく地球上で話されているあらゆる言語を聞いて、理解して、喋る事が出来るようです。スキルには現れてないのですが、どうやら私を異世界に拉致した存在がそのようにしてくれたみたいです」
「おおーっ!! 凄いな、ソレは。それならば安心して任せられるな。まあ、深野さんも英語とフランス語はペラペラだが、ボディガードとしてついてもらうお前も言葉が分かるにこした事はないからな」
相川先輩はホッとした顔をしてそう言った。が、続いた言葉に私は今回のロケは慎重にならざるを得ない事を確信した。
「実はな、脅迫とは違うんだが…… おかしな手紙が届いてな…… まあ、コレなんだが、読んでみろ」
先輩から手渡された手紙は英文で書かれていた。内容は、
【深野涼子は能力者だ。我が国に入るならばその能力を封印しなくてはならない。そのままの状態で入国するならば、我々の手によって封印を施す。その際に2日ほど姿を見せなくなるが、封印を終えたら無事に返すと約束しよう……(以下略)】
こんな感じで書かれている。どうやら、深野さんは何かのスキルを持っていると思い、それを察知したイギリスの何者かが、この手紙を送ってきたようだが……
私は先ほどボーッと見とれていたとはいえ、深野さんから何も感じ取る事は無かった。
この地球上で私に分からずにスキルを所有出来る人物が居るとは思わない。なので、深野さんはスキルには目覚めてないと確信できる。
だが、手紙の人物は深野さんに対して何かを感じたのたろう…… それが何かは分からないが、私が居る限り深野さんに手を出させるつもりは
私は今回の海外ロケでは今から緊張感を持って深野さんの周囲に注意する必要がある事を、この手紙によって悟ったのだった。
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