第42話 1日署長
「おーっ、キタキタ来たー!! 美人さんが3人かと思ったら4人も居るじゃないか!? こりゃ、コッチに来て正解だったな。なっ、署長!」
「タケシ先輩、いいんですか? ホントにそのうちクビになりますよ……」
どうやらこの署の署長はタケシの後輩のようだ。遠慮しながらもちゃんと言うべき事は言ってるようだ。
「フフフ、バカな事をいうなよ。ナオヤ。俺をクビに出来るヤツなんて居ないぞ」
「いえ、先輩…… 大勢いますからね。先輩の直の上司のナガタ警視長を皮切りに、僕が知るだけでも10人は先輩にクビを言い渡せるんですよ」
おお、いいぞ! もっと言ってやれ!! 私は後輩くんを応援した。
「心配すんなよー。ナガタさんにはちゃんと言ってきてるって。ナオヤからどうしても来てくれって頼まれたって! なっ! 大丈夫だろ?」
「なーにしてくれちゃってるんですかっ!! 先輩! 僕を巻き込まないで下さいっ!!」
そう言って人前なのに大声で言い合いを始める署の長と県警の偉いさん…… 周りには誰も2人を止める権限を持つ人が居ないようだ。
仕方なく私は前に出た。
「タケシよ…… お前、何しにコッチに来てるんだ、仕事しろよ。さっ、早く県警に戻るんだ」
私は躊躇いなくタケシにそう声をかけた。そんな私を見たタケシが言う。
「出たな! 世の男性全てを敵にまわした男!」
人聞きの悪い言い方で人を表すなよ……
「なあ、ナオヤもそう思うだろ? コイツ、ボディガードなんて言って、美人さん4人と一緒に町を歩いてきたんだぜ」
いや、私は仕事だからな。決して美人さんを
「先輩、お仕事でしょう。そんな事を言うのは間違ってますよ」
おお、後輩くんは分かってくれるのか。タケシの後輩にしておくのは惜しい!
「そうだぞ、タケシ。私は仕事でボディガードをしてるんだからな」
私がそこまで言った時に弥生も口を挟んできた。
「カナキさん、ギャラリーも集まってきてますから、任命式からお願いします」
仕事モードの弥生は怖い。タケシも要らぬ口を出すのをピタリとやめた。カナキというのがタケシの後輩くんの名字だな。
「はい、ヤヨイさん。コレは無視して始めましょう」
そう言うとカナキ署長は部下に指示を出して3枚の任命証を用意させた。このまま外で任命式を行うようだ。私は既に【気配感知】、【魔力感知】を発動している。今のところ怪しい気配も魔力も周辺500メートルには無い。
地元テレビ局が3社来て撮影しているが、私はカメラに映らないように既に移動している。
つつがなく任命式は終了し、カナキ署長が
「それでは、本日1日、町の治安を守る為によろしくお願いします」
と弥生とランドールの2人に言うと署の中に入っていった。
カナキ署長、タケシも連れて行って欲しかったのだが……
まあ、いい。弥生とランドールの2人はこれから徒歩で町中をパレードする。タケシでも弾除けにはなるだろう。いや、何かあったら絶対に弾除けとして利用してやる。私はそう決意してパレードの後ろを、3メートル離れてついていった。
相変わらず【気配感知】にも【魔力感知】にも反応は無い。しかし、私は油断なく周りを警戒していた。その時だった。
いきなり反応が現れたと思ったら弥生とランドールの2人の前に外国人が2人立っていたのだ。
その出現の仕方から転移能力を持つ者だと私にははっきりと分かった。
いきなり現れた外国人2人と1日署長3人の間に刑事さんたちが立ちふさがる。が、その様子を気にすることなく外国人の1人が声を発した。
「ちょ〜っと、お聞きしたいでぇ〜す。そこの3人の美女が身につけてる時計は何処で手に入れましたかぁ〜?」
どうやら私が渡した時計の魔力を察知して、不振に思った外国の偉いさんがこの2人に調査を言い渡したようだ。私は【思考感知、解析】でその事を知った。
「何を馬鹿な事を言ってるんだ。そこに立っていては邪魔だ、早く退きなさい」
刑事さんの1人が外国人の言葉を無視して2人を脇に退かそうと動き出した時に、喋らなかった方が魔力を発した。
「グッ、ウグッ……」
一声うめいて倒れる刑事さん。私は急いで確認したら、どうやら毒状態にされたようだ。直ぐに解毒魔法を用いて解毒した。私は魔力を消して魔法を用いたので、どうやら毒魔法かスキルを放った外国人にはバレてないようだ。しかし、毒が消えた事は直ぐに気づいたようで、また毒を放とうとしたので、私はその毒を【反転】してやった。
「クハァーッ!! 何だか体の調子が物凄く良くなったぞっ!!」
そう叫ぶ刑事さんをギョッとした顔で見る外国人。「Why」と小さくつぶやいたのが聞こえたが、私は2人の外国人の脳内に語りかけた。
『あなた達が何者かは聞かない…… だがこれ以上の邪魔をするなら覚悟が必要だよ…… 覚悟はあるかな?』
もちろん私は外国人2人に魔力を読まれないように消してある。まだまだ未熟な2人を相手に慎重過ぎるかも知れないが、バレる危険は最小限にするべきだろう。私の言葉を脳内で聞いた2人はキョロキョロと辺りを見回すが、どうやら分からなかったようだ。
人は未知に恐怖を覚える。2人は今まで絶対的な強者だったのだろうが、その自分たちを超えるかも知れない存在に恐怖したようだ。
何も言わずにその場から消えた。転移したようだ。私は魔力を追ったので場所は分かっている。まだ近くに居たのでまたその脳内に声を届けてやった。
『まだ邪魔をするつもりかな? 君たちが何処にいようと私には分かるんだよ。どうやら敵対する覚悟があるようだね…… では、少し力を見せてあげよう……』
そして私は、1時間で効果が切れるように、2人に【重力魔法】で2倍の重力をかけた。
「グハッ な、こ、これは!?」
「ま、魔力は察知出来なかった…… 撤退だ、ロブ!」
2人はそう言うと今度こそ転移で大使館まで飛んだ。アメリカ大使館か…… 全く力を誇示するのが好きな筈だ。
と、アメリカの善良な方が聞いたら怒りそうな感想を抱きつつ、私はパレードを確認した。
「はい、最近の警察ではマジックにも対策出来るように、あんな訓練を行っているんですよ。あの2人は私が依頼したアメリカでは非常に高名なマジシャンでしてね。本当に消えたように見えたでしょう? いや、私も種明かしはされてないのでどうやったかは知らないんです」
タケシが
その後は何も問題なくパレードは進み、署に戻ってきた。そして、解任式も終わり挨拶も終えて事務所に戻る。
タケシは弥生に誘われたがそのまま県警へと戻って行った。事務所に来ると真理ちゃんと鉢合わせするからな。
でも、カメラに映ってたから既にバレてると思うぞ、タケシ。
そして、事務所に戻ると案の定、真理ちゃんは既に知っていた。
戻ってきた4人と私を出迎えるなり、
「うちの
と、深々と頭を下げてきたのだ。そんな真理ちゃんに笑いながら弥生が言う。
「あら、迷惑なんて事は無かったわよ。タケシさんが居てくれて良かったと思ってるわ。だから、あまり怒っちゃダメよ、真理ちゃん」
その言葉にホッとした顔を見せる真理ちゃんだった。だが、その目はタケシへの怒りをまだ抑えきれてない…… タケシよ、ご愁傷さま……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます